「自分が一番見せたいプレーで、信頼を勝ち得たい」オナイウ阿道、仏4年目の葛藤と挑戦【現地取材】
おいしいフランスフット #10
1992年に渡欧し、パリを拠点にして25年余り。現地で取材を続けてきた小川由紀子が、多民族・多文化が融合するフランスらしい、その味わい豊かなサッカーの風景を綴る。
footballista誌から続くWEB月刊連載の第10回(通算168回)は、南野拓実、伊東純也、中村敬斗とともにリーグ1の舞台で奮闘する29歳の、仏参戦4年目、オセール在籍2年目の現在地。
今季リーグ1に復活した、オナイウ阿道所属のオセールが好調だ。序盤は4連敗で一時降格圏内まで転落したが、第8節のスタッド・ランス戦に2-1で勝利したのを皮切りに、以降はリヨン(△2-2)、レンヌ(○4-0)、マルセイユ(○1-3)と、いずれも自分たちより上位にいるチームから勝ち点を奪い、9位(5勝1分5敗・20得点19失点)まで順位を上げてきた。
ホームで強いのがオセールの特徴。昨季も本拠地スタッド・アベ・デシャンではリーグ戦で2敗しかしていない。今季も第4節で南野拓実のモナコに敗れた以外は全勝している。
ほぼ満席になるスタジアムの雰囲気はいつ行ってもものすごく熱狂的で、古参の記者さんも「ホームで戦う時の選手たちへのプレッシャーは相当すごい」と話していた。サポーターの叱咤激励が、選手たちにとってポジティブな発奮材料になっているのだろう。
チームの顔ぶれは、昨季のリーグ2(2部)年間最優秀監督賞に選ばれたクリストフ・ペリシエが続投。年間MVPに輝いたMFゴティエ・アインは出身クラブ、メスへの復帰を選んでチームを去ったが、彼と並んでリーグの年間ベストイレブンに選出されたFWガエタン・ペラン、DFポール・ジョリ、ブラジル人CBジュバウの3人は残留。ペランは膝の負傷で現在離脱中だが、ジュバウは昨季同様、キャプテンとしてチームを引っ張っている。
新戦力では、イタリアで育成を受けたコートジボワール出身の攻撃的MFハメド・ジュニオール・トラオレが良いスタートを切っている。シーズン開幕後に入団し、順応期間もなく即、実戦に加わったが、第5節のモンペリエ戦でリーグ1初ゴールをマークすると、それ以降は「このリーグでの感覚をつかんできた」という様子で、試合ごとに存在感を増している。第11節を終えて、9試合で5得点1アシストと着実に数字を積み上げている24歳には期待大だ。
「本心としては一番前でやりたい」
そしてオナイウは、ここまで出場停止だった第3節のル・アーブル戦を除く10試合に出場して、2得点を挙げている。
両ゴールとも後半に途中出場した試合でのもので、第5節のモンペリエ戦は左からのクロスに絶妙なタイミングで反応してのヘディングシュート、そして第10節のレンヌ戦は右からのクロスを受けた後、飛び出してきた元フランス代表GKスティーブ・マンダンダを冷静にかわして決めた美しい鋭角シュートだった。
フル出場で新シーズンの幕を開けた後、第2節のナント戦も先発で起用されたが、相手選手へのタックルによって一発退場となり、1試合の出場停止に。第4節からは途中出場となり、第6、7節でスタメンに復帰したものの、その後は途中出場と、昨季のチーム得点王(34試合15得点)であっても、先発イレブンに定位置を確保するには現時点では至っていない。
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Profile
小川 由紀子
ブリティッシュロックに浸りたくて92年に渡英。96年より取材活動を始める。その年のEUROでイングランドが敗退したウェンブリーでの瞬間はいまだに胸が痛い思い出。その後パリに引っ越し、F1、自転車、バスケなどにも幅を広げつつ、フェロー諸島やブルネイ、マルタといった小国を中心に43カ国でサッカーを見て歩く。地味な話題に興味をそそられがちで、超遅咲きのジャズピアニストを志しているが、万年ビギナー。