伝統の妥協なきハードワークは裏切らない。町田戦で手にした勝利がサガン鳥栖の未来にもたらす意味
プロビンチャの息吹~サガンリポート~ 第9回
10月19日。京都サンガF.C.に敗れたサガン鳥栖は、13シーズンに渡って守り続けたJ1の舞台から降格することが決まった。監督交代も経験し、難しい戦いを強いられた中で突き付けられた現実。ただ、彼らは前を向いて立ち上がる。軸に据えるべきは伝統のハードワーク。降格後の初の公式戦となったFC町田ゼルビア戦で挙げた勝利の意味を、杉山文宣が多角的に振り返る。
福田晃斗は降格が決まってからミックスゾーンに現れた
2024年10月19日、明治安田J1リーグ第34節、サンガスタジアム by KYOCERAにてサガン鳥栖のクラブ史に一つの区切りが刻まれた。鳥栖にとって敗れれば、J2降格が決まる可能性がある中で迎えた京都サンガF.C.との一戦。10分にク・ソンユンがマルセロ・ヒアンを倒してしまうと、これが決定機阻止となり退場。残り約80分を残し、数的優位に立った鳥栖だったが、10人の京都に対し、優位性をまったく生かせず。後半に2失点を喫し、0-2で敗れた。
試合後の会見に沈痛な表情で現れた木谷公亮監督は「これだけ結果を出せていないので、他会場どうこうは関係しますが、私が招いた結果かなと思います」と言葉を絞り出した。鳥栖の降格は同じ時間にキックオフを迎えた柏レイソルと、1時間遅くキックオフを迎えた湘南ベルマーレの結果次第だったが、柏はFC町田ゼルビアと引き分けて勝点1を積み上げており、湘南が引き分け以上でこの節で降格が決まるというまさに崖っぷちだった。
勝利だけを期して臨んでいた一戦で10人となった相手に喫した”完敗“は指揮官にもチームにも大きなダメージを与えており、勝利という”自力”を果たせなかった時点でチームには他力を望むべくもなかった。
試合後、選手たちがミックスゾーンを通過していく中、特別指定だった時期も合わせると在籍年数で10年目の福田晃斗は湘南の結果を見届けてからメディアの前に姿を現した。湘南はサンフレッチェ広島に勝利し、鳥栖のJ2降格が決定。2012年の初昇格以来、13シーズンにわたって守り続けてきたJ1の舞台から陥落してから10分も経たないうちに、福田は姿を見せた。結果が出る前にミックスゾーンを通過することもできたはずだが、逃げずにメディアと向き合う姿には鳥栖というクラブに対する責任の強さが滲んでいた。
「降格は決まってしまったけど、サガン鳥栖らしいサッカーを見せたい」(堺屋佳介)
降格決定から3日が経過、オフを挟んでチームは再び、動き出した。京都戦後は選手たちのショックを慮って声掛けはしなかったという木谷監督は、ミーティングであらためて選手たちに声を掛けた。
「結果は受け止めないといけない。でも、試合は続くし、選手それぞれのキャリアも続くと思う。だからこそ、前を向いてやり続けないといけないし、鳥栖としての意地を見せないといけない。残り4試合をどういったものにするのかはサポーターの方々も見ていると思うから、そこも含めてもう一回、前を向いてやろう」
選手たちの受け止めはさまざまだった。福田は「まだ答えを探しているようなところがある」と降格の失意から脱却し切れていなかったが、指揮官の言葉を胸に懸命に前を向こうとした。……
Profile
杉山 文宣
福岡県生まれ。大学卒業後、フリーランスとしての活動を開始。2008年からサッカー専門新聞『EL GOLAZO』でジェフ千葉、ジュビロ磐田、栃木SC、横浜FC、アビスパ福岡の担当を歴任し、現在はサガン鳥栖とV・ファーレン長崎を担当。Jリーグを中心に取材活動を行っている。