魂のストライカーが見せ続けた「柏レイソルの9番」の背中。受け継がれるべきは工藤壮人が背負った責任感とサッカーに取り組む姿勢
太陽黄焔章 第18回
いつだって大事な試合では、必ずと言っていいほどこの男がゴールを奪っていった。左胸にあしらわれた太陽のエンブレムを叩き、サポーターへとクラブ愛をアピールする姿も印象的。J1におけるクラブの最多スコアラーという記録以上に、圧倒的な存在感と勝負強さでストライカーの仕事を果たしてきた背番号9。工藤壮人が背負い続けた勝利への責任感とサッカーに取り組む真摯な姿勢が、柏レイソルにとって受け継がれていくべきかけがえのない財産であることに、疑いの余地はない。
11年前のあの日も、11月2日土曜日、雨だった
名古屋グランパスとアルビレックス新潟が、タイトルを懸けて真っ向からぶつかり合ったYBCルヴァンカップの決勝を見ているとき、過去の記憶がふと蘇った。
11年前のあの日の試合も、今年と同じ11月2日土曜日の開催で、天候も雨だった。
2013年11月2日、ヤマザキナビスコカップ決勝で、柏レイソルは浦和レッズを1-0で下し、14年ぶり二度目の優勝を果たした。MVPに輝いたのは、決勝点を奪った工藤壮人だった。
その前日、国立競技場で行われた前日公開練習の取材に訪れたメディアの間では、大方の予想が「浦和圧倒的有利」だった。
無理もない。キャプテンの大谷秀和をはじめ、橋本和、鈴木大輔、キム・チャンス、山中亮輔と、主力5人を出場停止やケガで欠く柏に対し、浦和はベストメンバーが予想された。しかも決勝戦の1週間前のJ1リーグ第30節では、奇しくも前哨戦とも言うべき両者の対戦があり、浦和が2−1で柏を下していたのだ。誰の目から見ても柏の不利は明白だった。
だがその中で、前日取材の大勢のメディアに囲まれた工藤が公言した。
「大舞台で結果を残してこそ、レイソルの9番なんです。明日は、僕がゴールを決めてチームを優勝に導きます」
そして翌日の決勝戦。前半アディショナルタイムに工藤の放った渾身のヘッドが優勝を手繰り寄せた。まさに有言実行の一撃である。
大一番における勝負強さ。ストライカーとしての圧倒的存在感
工藤が柏時代に記録したJ1通算56得点は、クラブ最多得点数であり、この数字はいまだ破られていない。ただ、この“クラブ最多スコアラー”という肩書き以上に、特筆すべきは工藤の圧倒的な存在感だ。上記のナビスコカップにも象徴されるとおり、大一番における彼の勝負強さは抜群だった。……
Profile
鈴木 潤
2002年のフリーライター転身後、03年から柏レイソルと国内育成年代の取材を開始。サッカー専門誌を中心に寄稿する傍ら、現在は柏レイソルのオフィシャル刊行物の執筆も手がける。14年には自身の責任編集によるウェブマガジン『柏フットボールジャーナル』を立ち上げ、日々の取材で得た情報を発信中。酒井宏樹選手の著書『リセットする力』(KADOKAWA)編集協力。