サウダージの国からボア・ノイチ 〜芸術フットボールと現実の狭間で〜 #10
創造性豊かで美しいブラジルのフットボールに魅せられ、サンパウロへ渡って30年余り。多くの試合を観戦し、選手、監督にインタビューしてきた沢田啓明が、「王国」の今を伝える。
footballista誌から続くWEB月刊連載の第10回(通算188回)は、長期離脱からカムバックし、低迷するセレソンの起爆剤としても期待されながら、復帰2戦目で再び負傷したアル・ヒラルの背番号10について。
ネイマールが、32歳にしてキャリアの大きな曲がり角に直面している。「大ピンチ」と言い換えてもいいだろう。
昨年10月の2026年W杯南米予選ウルグアイ戦で、左膝十字靭帯断裂の重傷。手術、そして「永遠とも思える」(本人)長いリハビリを経て、今年10月21日、371日ぶりにAFCチャンピオンズリーグエリート(ACLE)の西地区リーグステージ第3節アル・アイン(UAE)戦で、後半途中から出場を果たした。嬉々としてピッチを走り、惜しいシュートも放ち、アディショナルタイムを含めて29分間プレー。試合後、「ついに帰ってきたぞ! 本当に幸せだ!」と笑顔で叫んだ。
それから2週間後の11月4日、ACLEの第4節エステグラル(イラン)戦では58分からピッチに立った。トップ下に入り、広く動いて積極的にボールに触った。ところが85分、ゴール前で右後方から浮き球のパスを右足で止めようとした際、顔をしかめて右太腿を押さえた。2分後に交代。
「痙攣(けいれん)に似た痛みを感じたので、大事を取って交代を申し出た。長いブランクがあるからこういうこともあり得る、とドクターから聞いていた。大きな故障ではないと思うんだけど……」
月給22億円、1年半で出場7試合
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Profile
沢田 啓明
1986年ワールドカップ・メキシコ大会を現地でフル観戦し、人生観が変わる。ブラジルのフットボールに魅せられて1986年末にサンパウロへ渡り、以来、ブラジルと南米のフットボールを見続けている。著書に『マラカナンの悲劇』(新潮社)、『情熱のブラジルサッカー』(平凡社新書)など。