権威を失ったビエルサ。奇才の流儀はウルグアイ代表に合わないのか
EL GRITO SAGRADO ~聖なる叫び~ #10
マラドーナに憧れ、ブエノスアイレスに住んで35年。現地でしか知り得ない情報を発信し続けてきたChizuru de Garciaが、ここでは極私的な視点で今伝えたい話題を深掘り。アルゼンチン、ウルグアイをはじめ南米サッカーの原始的な魅力、情熱の根源に迫る。
footballista誌から続くWEB月刊連載の第10回(通算169回)は、ルイス・スアレスの内情暴露、監督批判から1カ月、揺れるウルグアイ代表の結束と、昨年5月からチームを率いてきた69歳の立場について。
「ウルグアイ代表は誰よりも大きな存在」は…ビエルサへの当てつけだった
今、ウルグアイ代表におけるマルセロ・ビエルサ監督の立場が大きく揺らいでいる。そして、私はそれが残念でならない。
すべては、ルイス・スアレスによる「暴露」から始まった。10月初旬、ウルグアイのメディア『DSports』の取材に応じたスアレスは、今年開催されたコパ・アメリカ期間中、マルセロ・ビエルサ代表監督に対する不満が最高潮に達し、そのせいで「チーム内に緊迫した空気が流れた」としてビエルサを舌鋒鋭く批判したのだ。
「コパ期間中のことは一冊の本にできるほど語ることがある」とまで言ったスアレスによるビエルサ批判の内容についてはすでにWEBメディア等で報じられている通りだが、要点は以下のようなものとなっている。
*選手たちに「おはよう」の挨拶さえしない
*アグスティン・カノービオにスパーリングメンバーと同じ役割をさせるなど、無礼な扱いをした
*二言目には「ウルグアイの人々のために」と言うくせに、宿泊先のホテル前で選手たちを待つファンの相手をしないように命じた日があった
*これらを含むいくつかの問題について自分がチームを代表して監督と5分間ほど話した後、戻ってきた返事は「どうもありがとう」の一言のみだった
さらにスアレスは、コンプレホ・セレステ(ウルグアイ代表のトレーニング施設)で長年働くスタッフがビエルサによって選手と距離を置くことを強いられ、一緒に食事を取ることも許されなくなったことについて嘆いた他、トレーニングのメソッドが大きく変わったことへの不満も述べ、「今後(ウルグアイ代表に)何かあっても選手たちのせいにしないでほしい」とまで語った。つまりスアレスの考えでは、もしチームの行方が理想通りにならなかった場合、すべてはビエルサがピッチ外で引き起こした問題が原因ということになる。
これらの発言を聞いた後、私は、スアレスが自身にとって最後となる代表戦の後で語った「ウルグアイ代表はどの選手よりも、どの監督よりも、誰よりも大きな存在であることを忘れないでほしい」との言葉が、ウルグアイ国民への呼びかけではなく、ビエルサに対する当てつけだったことに気づいた。てっきり、すでに一部のメディアからビエルサに対する批判があったことを憂慮したスアレスが国民の一致団結を訴えたものと思っていたが、ウルグアイ代表は偉大な存在なのだと言い聞かせたかった相手は、他でもないビエルサだったのだ。
指導は冷淡でも心は温かいビエルサの気質は…理解されなかった
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Profile
Chizuru de Garcia
1989年からブエノスアイレスに在住。1968年10月31日生まれ。清泉女子大学英語短期課程卒。幼少期から洋画・洋楽を愛し、78年ワールドカップでサッカーに目覚める。大学在学中から南米サッカー関連の情報を寄稿し始めて現在に至る。家族はウルグアイ人の夫と2人の娘。