コール・パーマー、得点関与でホーランドを凌ぐ見た目は普通の「怪物くん」
Good Times Bad Times 〜フットボール春秋〜 #10
プレミアリーグから下部の下部まで、老いも若きも、人間も犬もひっくるめて。フットボールが身近な「母国」イングランドらしい風景を、在住も25年を超えた西ロンドンから山中忍が綴る。
footballista誌から続くWEB月刊連載の第10回(通算244回)は、2033年までの契約延長も大歓迎、在籍1年でチェルシーファンのアイドルとなった22歳のイングランド代表アタッカーについて。
誰もがパーマーだらけのチームを夢見る
イングランドの試合会場周辺では、よくホームチームの“ファンジン”が売られている。電車でアウェイゲームに向かう途中、ファン雑誌を“車内販売”する売り子サポーターを見たこともある。
時には、表紙に惹かれて手に取ってみる。地元サポーターたちの関心事が透けて見えるからだ。
例えば、プレミアリーグの今季第9節が行われた10月27日、チェルシー対ニューカッスル(2-1)の会場となったスタンフォードブリッジ付近で購入した『cfcuk』誌。チェルシーファンの手による同人誌10月号は、11人のコール・パーマーが[4-4-2]で並ぶ布陣図が表紙を飾っていた。
昨季の6位フィニッシュといい、トップ4争いを期待させる今季の滑り出しといい、過渡期にある若いチームが抱かせる希望は、パーマーなくしてはあり得ない。かつて、「誰もがキャラガーだらけのチームを夢見る」と歌っていたのはリバプールのサポーターたちだが、パーマーが11人のチームは、ハートの熱いDFだったジェイミー・キャラガーぞろいのイレブンよりも強力だろう。現在の「プレミア最高」が、ピッチのいたるところにいることになるのだから。
この称賛の声は、数字に裏付けられてもいる。開幕後のチェルシー移籍で主軸となった昨季プレミアでは、22ゴール11アシスト。今季も、リーグ戦9試合ですでに7ゴール5アシストを記録している。直接関与した通算得点数「45」は、古巣マンチェスター・シティで「得点」の二文字を背負うアーリング・ホーランドが、同じ期間内に記録した「42」を凌ぐ。
言うなれば、パーマーは「怪物くん」だ。現プレミアの「モンスター」は、やはりホーランドだろう。骨太の身長195センチという身体に、その見た目以上の身体能力。10月23日のCLリーグフェーズ第3節スパルタ・プラハ戦(5-0)、英語では「カンフー・バックヒール・ゴール」と呼ばれた、ヒールでのジャンピングボレーなど、まさに人間離れしている。
パーマーは、細身の身長185センチ。ひょろっとした体型の若者であれば、近所のファイブ・アサイド(フットサル)用コートでも見かける。ところが、そのプレーたるや、見た目は普通の少年風だが超能力を持つ漫画の主人公さながらだ。……
Profile
山中 忍
1966年生まれ。青山学院大学卒。90年代からの西ロンドンが人生で最も長い定住の地。地元クラブのチェルシーをはじめ、イングランドのサッカー界を舞台に執筆・翻訳・通訳に勤しむ。著書に『勝ち続ける男 モウリーニョ』、訳書に『夢と失望のスリー・ライオンズ』『ペップ・シティ』『バルサ・コンプレックス』など。英国「スポーツ記者協会」及び「フットボールライター協会」会員。