クラシコの明暗を分けたラインコントロールの差。「前で守るカルチャー」なきレアル・マドリーの危ない綱渡り
サッカーを笑え #28
10月26日にサンティアゴ・ベルナベウで行われたラ・リーガ第11節のエル・クラシコは54分、56分(レバンドフスキ)、77分(ヤマル)、84分(ラフィーニャ)の後半4ゴールでバルセロナが完勝。ハンジ・フリック体制初のクラシコで同カードの連敗を4で止めるとともに、勝ち点を30(10勝1敗)に伸ばし、2位レアル・マドリー(7勝3分1敗)との差を6に広げた。
VARも戦術のうち、「極めてモダン」なバルセロナ守備
バルセロナの歴史的大勝(0-4)の勝負の分かれ目は、「ライン際の攻防」にあったと言っていい。
試合当日にプレビューを掲載したスペイン紙『エル・パイス』によれば、バルセロナは過去9シーズンのラ・リーガで最も高いDFライン(50.6m)を敷くチームであり、欧州一の1試合平均6.5回のオフサイドを取るチームである。一方、レアル・マドリーは最高スピードがビニシウス35.5km/h、ムバッペ34.9 km/h、ベリンガム32.9 km/hという高速アタッカーを擁しており、バルデ(32.9)以外のバルセロナDF陣、クバルシ(31.8)、クンデ(31.6)、イニゴ・マルティネス(31.4)を上回っている(計測はUEFAでCLでの値)。ビニシウスとクバルシが走り合えば1秒で1m差が付く計算――。つまり、バルセロナの高い最終ラインの裏をレアル・マドリーの高速アタッカー陣がどう突くかが今回のクラシコの見どころだったわけだが、フタを開けてみればレアル・マドリーが12回(ムバッペ8回、ビニシウス3回、ベリンガム1回)ものオフサイドを犯し、バルセロナDF陣は背走する必要があまりなく、試合の行方を決めた54分の先制点はレアル・マドリーのラインコントロールミスから生まれた。スコアだけでなくラインコントロールでもバルセロナの一方的勝利だったわけだ。
なぜ、ムバッペはこれだけオフサイドの罠に落ちたのか?
「裏へ飛び出す前に、横に走らなきゃ」と、テレビ中継解説のパトリック・クライファートは簡単に切り捨てていた。「横に走れ」、正確に言えば、ラインに対して「半月を描くように」走れ、これ小学生レベルへのアドバイスで、世界一を争うFWには失礼だが、それ以外に言いようがない。
もちろん、バルセロナのギリギリまで下がらないラインも褒めておかないといけない。こっちはちゃんと「横走り」をしていたのだ。
例えば、19分にムバッペがオフサイドになったシーン。ベリンガムがパスを出す瞬間までイニゴ・マルティネスとクバルシはハーフウェイライン上を横走り。一方ムバッペは我慢できずに飛び出してしまった。セオリーから言えば、ベリンガムはフリーで前を向いて裏へパスを出す態勢だったので、ラインを下げ始めるべきで、ムバッペもマークされているのを想定して早めに動いたのだと思うが、結果は明らかなオフサイドに終わった。
その11分後、ムバッペが浮き球で技ありのゴールを決めるが、VARで取り消された。ミリトンからルーカス・バスケスにボールが渡り、その瞬間ベリンガムが大外を回り込んだことで2対1を作られ、迷ったバルデがラインを上げ切れなかったことでムバッペが裏を突くことができたのだが、それでも体半分オフサイドだった。
このクラシコで明らかになったように、バルセロナの極端なハイラインは、ビデオ判定抜きでは成立しない。かかとやつま先の一部、数センチ単位でもセミオートマチックで正確に裁いてくれるから極限まで下げない、という判断が可能。フリック監督の最後の保険はVARで、VARも戦術のうちなのだ。「ジャッジミスもサッカー」となんて言っていた一昔前には危なっかしくてやってられなかった、という意味で「極めてモダンな戦術」だと言える。
4mのギャップ、「スピードと強さ」頼りのマドリー守備
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Profile
木村 浩嗣
編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。