ムバッペ8回オフサイド?機械判定の影響?フリック・バルサ、クラシコ圧勝をもたらしたハイライン戦術考察
新・戦術リストランテ VOL.39
footballista創刊時から続く名物連載がWEBへ移籍。マエストロ・西部謙司が、国内外の注目チームの戦術的な隠し味、ビッグマッチの駆け引きを味わい尽くす試合解説をわかりやすくお届け!
第39回は、0-4という思わぬ大差になったレアル・マドリー対バルセロナのクラシコ。ムバッペが8回もオフサイドを記録(2度のゴール取り消し含む)するなどバルセロナの異様なハイラインが目立つ試合だったが、戦術面から勝負のポイントを考察してみたい。
レアル・マドリー対バルセロナのエル・クラシコは0-4でバルセロナの大勝でした。
週中のCL第3節でレアル・マドリーはドルトムントに5-2、バルセロナは苦手バイエルンに4-1。好調同士の一戦だっただけに0-4はやや意外ではありました。
スコアほど両者に差があったわけではなく、前半にいくつもあった決定機をレアル・マドリーが決めていれば結果は違ったものになっていたと思います。ただ、戦術的な完成度に大きな差があったのも事実で、それがそのまま表れたと言うこともできるでしょう。
超コンパクト守備vs高速カウンター
この試合のポイントは、バルセロナの超コンパクト守備をレアル・マドリーが攻略できるかどうかでした。
今季のバルセロナは守備時に[4-2-4]で縦25メートルくらいの非常にコンパクトな陣形でのプレッシングを行っています。これはゾーナル・プレッシングで一世風靡したACミランの初期段階以来、あまり見たことがないものです。それでバイエルンを1点に抑えられたので、レアル・マドリーに対してもある程度の効果は期待できた。
一方、レアル・マドリーはドルトムント戦の85分にロドリゴが負傷交代。そこから[4-4-2]にシステムを変えました。MFは右からバルベルデ、チュアメニ、カマビンガ、ベリンガム。攻守に優れたアスリート4人をフラットに配置し、2トップにビニシウス、ムバッペというのは現時点での最適解だったと思います。強力な4人でボールを奪えば、制御不能な2トップによる高速カウンターを打てます。
コンパクト守備のバルセロナ、高速カウンターのレアル・マドリー。この攻防が焦点でした。
裏を取られまくるバルセロナ
レアル・マドリーの[4-4-2]は予想通りでしたが、並び方がドルトムント戦とは違っていました。右からベリンガム、バルベルデ、チュアメニ、カマビンガ。ベリンガムの右はドルトムント戦のスタートもそうだったのですが本来は左側が得意な選手です。
意図としては、まず左側の守備の強化。ヤマル対策ですね。カマビンガとメンディのコンビで、ヤマルとクンデの攻撃を迎撃するためでしょう。バルセロナは左ウイングのラフィーニャが中へ移動して第二トップ下となるため左の幅取りはSBのバルデです。左は右ほどではない。そこでヤマル&クンデの右攻めへの防御ですね。もう1つは、ベリンガムをパスの受け手に想定したのでしょう。スピードスターのビニシウス、ムバッペに加え、空中戦の競り落としができるベリンガムで浅いDFラインの裏を狙う。
つまり、レアル・マドリーは3種類の裏抜けを用意していたと思います。中央のムバッペによる直接的な飛び出し。側面のビニシウスの縦へのドリブル。対角のサイドチェンジをベリンガムが受ける。後の2つはオフサイドになりにくい。
……
Profile
西部 謙司
1962年9月27日、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、会社員を経て、学研『ストライカー』の編集部勤務。95~98年にフランスのパリに住み、欧州サッカーを取材。02年にフリーランスとなる。『戦術リストランテV サッカーの解釈を変える最先端の戦術用語』(小社刊)が発売中。