グアルディオラいわく「歯医者の椅子」。アタランタが欧州の舞台で優位性を持つ理由
CALCIOおもてうら#29
イタリア在住30年、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えるジャーナリスト・片野道郎が、ホットなニュースを題材に複雑怪奇なカルチョの背景を読み解く。
今回は、イタリア国内でも強いがそれ以上に欧州の舞台で特異な存在感を発揮しているアタランタ。昨季ELを制したガスペリーニ独自の戦術は、昨季はリバプールやレバークーゼン、今季はアーセナルといった欧州トップクラブを苦しめ続けている。その理由を考察してみたい。
ペップ・グアルディオラが「アタランタと戦うのは歯医者の椅子に座るようなもの」と言ったのは、アタランタが初めてCLの舞台に立った19-20のグループステージで、シティと対戦した時のことだった。
近年の欧州サッカーにおけるスタンダードとは明らかに異質なジャン・ピエロ・ガスペリーニ監督独自のマンツーマンスタイルが、それに慣れていないイタリア国外のチームにもたらす、これから何が起こるかわからない不安や居心地の悪さ、そして実際に味わう戦術的困難の大きさを、これほどうまく言い当てた表現は他にはない。
「自陣でもマンツーマン」はイタリア以外では見当たらない
それからの5年間、アタランタは、セリエAはもちろんだがそれ以上にヨーロッパの舞台で、多くの強豪チームを「歯医者の椅子」に座らせ、少なくない割合で勝利を収めてきた。昨シーズンのEL準々決勝でユルゲン・クロップのリバプール、決勝でシャビ・アロンソのレバークーゼンを機能不全に陥らせ、クラブ史上初めての国際タイトルを勝ち取ったのは記憶に新しい。
EL王者として参戦した今シーズンのCLでは、開幕戦で格上アーセナルと0-0で引き分けて勝ち点1をもぎ取り、続く第2節はシャフタールに3-0、今週の第3節ではセルティック相手にシュート22本、2.68XG(ゴール期待値)を記録する一方的な試合を演じている。フィニッシュに精度を欠いて結果は0-0に終わったものの、試合後にガスペリーニ監督が「CLのようにハイレベルなコンペティションでここまで一方的な展開は珍しい」と自画自賛する内容だった。
アタランタが、とりわけ欧州カップ戦の舞台で存在感を発揮する「歯医者の椅子」たる理由は、冒頭でも触れたマンツーマンベースの独特な戦術メカニズムにある。敵のビルドアップに対するハイプレスにおいては、人に基準を置くマンツーマンシステムを採用するチームも少なくないが(ラルフ・ラングニックの影響下にあるドイツやオーストリアのチームがその筆頭)、ミドルサードより下での守備においてもマンツーマンの原則を貫くチームは、欧州カップ戦に話を限ればアタランタ以外にはほとんど見当たらない。……
Profile
片野 道郎
1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。