先駆者ブライトンに追随。スカウトの専門化「ポジショナルスカウト」とは何か?
TACTICAL FRONTIER~進化型サッカー評論~#9
『ポジショナルプレーのすべて』の著者で、SNSでの独自ネットワークや英語文献を読み解くスキルでアカデミック化した欧州フットボールの進化を伝えてきた結城康平氏の雑誌連載が、WEBの月刊連載としてリニューアル。国籍・プロアマ問わず最先端の理論が共有されるボーダーレス化の先に待つ“戦術革命”にフォーカスし、複雑化した現代フットボールの新しい楽しみ方を提案する。
第9回は、三笘薫を発掘したことで有名なブライトンが採用している「ポジショナルスカウト」という新しいアプローチについて掘り下げてみたい。
「スカウトという職業には、夢のような力がある」
2013年、マイケル・カルバンが「フットボールにおけるスカウト」についての著書『The Nowhere Men』を発表してから、スカウトの世界も大きく変貌を遂げてきた。感覚に頼る職人芸だったスカウティングとデータやテクノロジーとの融合が進み、各クラブは最適解を探し続けている。
原石を見つけ、その選手を世界に羽ばたかせるスカウトは、まるで未開の地で宝を探す冒険家のようだった。しかし、今や世界各国のリーグ映像が簡単に入手できるようになり、選手のプレーデータも数値化されている。ブライトンは当時のJリーグにおける選手の統計データを分析し、三笘薫の能力に注目した数少ないクラブだったが、おそらく今は状況が大きく変貌している。Jリーグで三笘のようなデータを叩き出す選手がいれば、より多くのスカウト/クラブが動き出すはずだ。
ここ数年でデータ分析によるスカウティングは発展した。誰にも発見されていない未完の大器を見つけるのは難しくなりつつある。多くのクラブがスカウティングに投資し、各国の才能を探すことに躍起になっているからだ。実際、若手有望株は多くの場合、複数のクラブからアプローチを受けており、各クラブのスカウティング力の差も縮まってきているように思える。その差を埋める1つが、データやテクノロジーの進化だろう。
そんな中で、スカウティングで欧州を驚かせたクラブであるブライトンは、さらに先進的なアプローチにトライしている。強豪クラブも模倣する、そのアプローチこそが「ポジショナルスカウト」だ。
NFLから輸入されたアイディア
フットボールにおいてポジショナルスカウトは真新しいアプローチと言えるが、アメリカンスポーツの世界、特にNFL(ナショナル・フットボール・リーグ)では決して奇抜なアイディアではない。アメリカンフットボールでは攻守のスペシャリストをスカウティングすることが求められることから、多くのチームがポジション別にスカウトを用意することで、ドラフトでライバルを出し抜こうとしてきた。
グレッグ・ガブリエルはニューヨーク・ジャイアンツやシカゴ・ベアーズにも在籍し、NFLで名を知られたスカウトだが、2001年から2010年までスカウティングディレクターを任されていた頃に「革新的なスカウティングシステムの導入」に成功している。そのシステムでは地域担当のスカウトが大学の試合を観戦しながら、まずは候補となる選手をピックアップ。そして彼らが推奨する選手を、それぞれのポジションのスペシャリストとなるポジショナルスカウトがダブルチェックするのだ。ポジショナルスカウトは選手の動画を4~6試合チェックし、獲得すべき選手を上層部に推薦する。その結果として、彼らは多くの優秀な若手プレーヤーを集めることに成功した。……
Profile
結城 康平
1990年生まれ、宮崎県出身。ライターとして複数の媒体に記事を寄稿しつつ、サッカー観戦を面白くするためのアイディアを練りながら日々を過ごしている。好きなバンドは、エジンバラ出身のBlue Rose Code。