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アヤックスが導入の『アスレチック・スキルズ・モデル』。マルチスポーツ4種目の×と〇で基礎的運動能力を網羅

2024.10.24

トレーニングメニューで学ぶエコロジカル・アプローチ実践編#11

23年3月の『エコロジカル・アプローチ』出版から約1年、著者の植田文也氏は同年に盟友である古賀康彦氏の下で再スタートを切った岡山県の街クラブ、FCガレオ玉島でエコロジカル・アプローチの実践を続けている。理論から実践へ――。日本サッカー界にこの考え方をさらに広めていくために、同クラブの制約デザイナーコーチである植田氏と、トレーニングメニューを考案しグラウンド上でそれを実践する古賀氏とのリアルタイムでの試行錯誤を共有したい。

第11回は、オランダの名門アヤックスアカデミーで導入されている『アスレチック・スキルズ・モデル』を例に、育成年代前期でのマルチスポーツのメリットについてさらに掘り下げてみたい。

サッカーに含まれない『登る・這う』、『揺れる』、『音楽に合わせて踊る』の効果とは?

植田「今回も前回に引き続き、マルチスポーツについて語っていきたいと思います。おさらいだけど、マルチスポーツの利点は創発性という人間の持つ性能を活かせること、新しいコーディネーションパターンが融合され新たなスキルが生まれること、ゆえにマルチスポーツを通じてオールラウンドに能力を開発しようという話をしたね」

古賀「前回はボールを使わないような(サッカーにとって)代表性の低いアクティビティで、サッカーに含まれていない動作能力を補うようなものをいくつか紹介したね。例えば、このカンガルーウォーキングの動画が一例だね」

カンガルーウォーキング

植田「例えばこのカンガルーウォーキングには基礎的な運動能力であるバランス、転倒、移動、回転、着地といったものを学習することができるとされているんだけど、そもそもの基礎的な運動能力についてここで整理したい」

古賀「そもそもの基礎的な運動能力にはどんなものがあるとされているの?」

植田「前回に引き続き紹介しているものは、オランダのアヤックスやオランダ代表でトレーナーを務めるレネ・ウォンフォートが開発したタレント開発アプローチである『アスレチック・スキルズ・モデル』というものを題材にしているんだ。そして、この書籍の中では次の表1のような基礎的運動能力が紹介されているよ」

表1:アヤックスアカデミーが取り組むマルチスポーツの例と基礎的運動能力1

1. Wormhoudt, R., Savelsbergh, G. J., Teunissen, J. W., & Davids, K. (2017). The athletic skills model: optimizing talent development through movement education. Routledge.

古賀「1列目の『バランス』から『音楽に合わせて動く』までが基礎的運動能力だよね」

植田「そう。そして、サッカーをターゲットスポーツとした場合、ターゲットスポーツに含まれる基礎的運動能力が太字で記載されている部分」

古賀「つまり、サッカーには太字である『バランス』から『投げる・狙う』まで+『蹴る・シュートする・狙う』が含まれているということだね。逆に細字の部分はサッカーにはそれほど含まれていないとされる基礎的運動能力だね」

植田「そう。1行目に記載されている種目はアヤックスアカデミーが取り組んでいるマルチスポーツで陸上、器械体操、遊びと他のスポーツ、柔道の4種目で構成されているよ。

表2:ターゲットスポーツとマルチスポーツの関係

 そして、表中の[×]、[〇]印はターゲットスポーツとマルチスポーツとの関係を示している(表2に関係を要約)。[×]はターゲットスポーツにもマルチスポーツにも含まれている基礎的運動能力(つまり、当該マルチスポーツでターゲットスポーツに含まれる運動能力を鍛えることができる)を表し、[〇]はターゲットスポーツには含まれていないがマルチスポーツには含まれている基礎的運動能力(つまり、当該マルチスポーツでターゲットスポーツには含まれない運動能力を補うことができる)。例えば、サッカーをターゲットスポーツとし、そのための練習の一環として先ほどのカンガルーウォーク(器械体操に含まれる)を行う場合は3列目のようになる。つまり、器械体操を通じて、サッカーに含まれる『バランス』、『蹴る・シュートする・狙う』という能力をより強化したり、多様性(バリアビリティ)を持たせたりすることができる(3列目[×]の部分)」

古賀「一方でサッカーには含まれない『登る・這う』、『揺れる』、『音楽に合わせて踊る』といった運動能力を器械体操で補っているね(3列目[〇]の部分)。『サッカーには存在しない能力だから取り組まなくていい』というのが従来的な発想だとすると、『含まれていなくても人間の創発性に着目するならやるべき』というのがエコロジカルな発想になるよね。ちなみに、[―]印はそもそも当該マルチスポーツには含まれていない運動能力を表している」

植田「総じていうと、サッカーに含まれる/含まれない運動能力をバランスよく鍛えること、そのために異なるいくつかのスポーツでマルチスポーツプログラムを作るといったところだね」……

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Profile

植田 文也/古賀 康彦

【植田文也】1985年生まれ。札幌市出身。サッカーコーチ/ガレオ玉島アドバイザー/パーソナルトレーナー。証券会社勤務時代にインストラクターにツメられ過ぎてコーチングに興味を持つ。ポルトガル留学中にエコロジカル・ダイナミクス・アプローチ、制約主導アプローチ、ディファレンシャル・ラーニングなどのスキル習得理論に出会い、帰国後は日本に広めるための活動を展開中。footballistaにて『トレーニングメニューで学ぶエコロジカル・アプローチ実践編』を連載中。著書に『エコロジカル・アプローチ』(ソル・メディア)がある。スポーツ科学博士(早稲田大学)。【古賀康彦】1986年、兵庫県西宮市生まれ。先天性心疾患のためプレーヤーができず、16歳で指導者の道へ。早稲田大学大学院スポーツ科学研究科でコーチングの研究を行う。都立高校での指導やバルセロナ、シドニーへの指導者留学を経て、FC今治に入団。その後、東京ヴェルディ、ヴィッセル神戸、鹿児島ユナイテッドなど複数のJリーグクラブでアカデミーコーチやIDP担当を務め、現在は倉敷市玉島にあるFCガレオ玉島で「エコロジカル・アプローチ」を主軸に指導している。@koga_yasuhiko(古賀康彦)、@Galeo_Tamashima(FCガレオ玉島)。

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