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ムバッペに代わるパリSGの顔に!8戦7発の22歳、バルコラの勇気ある決断、覚悟、努力

2024.10.21

おいしいフランスフット #9

1992年に渡欧し、パリを拠点にして25年余り。現地で取材を続けてきた小川由紀子が、多民族・多文化が融合するフランスらしい、その味わい豊かなサッカーの風景を綴る。

footballista誌から続くWEB月刊連載の第9回(通算167回)は、8節を終えて首位(62025得点8失点)に浮上した3連覇中の王者を、目下リーグ1最多7ゴールで牽引する「賢く、謙虚で、努力家」な“ムバッペの後継者”について。

「まったく得策でない」と言われたリヨン→パリ

 ズラタン・イブラヒモビッチやデイビッド・ベッカム、近年ではネイマールやリオネル・メッシ、そしてキリアン・ムバッペらを擁し『銀河系集団』と呼ばれたパリ・サンジェルマン(PSG)。しかしムバッペもレアル・マドリーへと巣立った今シーズンは、銀河の輝きを放つスター集団ではなくなった。とはいえ、リーグ随一の実力者ぞろいのチームであることに変わりはない。

 その中で、“ムバッペ・ロス”を払拭する存在となっているのが、9月で22歳になったばかりのウインガー、ブラッドリー・バルコラだ。俊足で、さっそうと左サイドから攻め上がってゴール前に迫るプレースタイルにも、ムバッペと共通点がある。

10月19日に本拠地パルク・デ・プランスで行われたリーグ1第8節、PSG対ストラスブール(4-2)の選手入場シーン(上)とバルコラの選手紹介シーン(下)を動画で。コール&レスポンスでチーム一番の大声援を受けるところにも、ファンからの人気ぶりがうかがえる(Videos: Yukiko Ogawa)

 パリ近郊で生まれたローカルヒーローのムバッペと異なるのは、バルコラがPSGのライバルであるリヨンの出身であることだ。2002年9月2日にリヨン郊外で生まれたバルコラは、地元クラブを経て、8歳でリヨンの下部組織に入団した。

 少年時代の憧れの選手はクリスティアーノ・ロナウドで、彼のプレースタイルやトレーニング熱心なところを尊敬していたと、以前テレビ局『TF1』のインタビューで語っている。ユースチームにいる時から「リヨンにすごい若手がいる」というのは全国的に話題になっていて、19歳になった直後にプロ契約を結ぶと、2021-22シーズンにリーグ1デビューを果たした。

 その彼が、2023年夏にPSGに移籍したのは、ちょっと意外だった。

 ボーナス込みで5000万ユーロ(約80億円)という破格の移籍金は、苦境にあえぐリヨンにとっては断れないオファーではあっただろうが、リヨンで生まれたサッカー少年にとって憧れのクラブはオランピック・リヨネ。同じくリヨン生まれで同クラブの大スターとなったカリム・ベンゼマのように、このチームを背負って立つ選手になることを、ファンも大いに期待していた。

 そうした感情的な部分だけでなく、リヨンでもまだプレータイムを得始めたばかりの新人が、実力者ぞろいのPSGに行ってもベンチ要員になるだけで、実戦での経験が重要な時期にある彼のキャリアにとって、それはまったく得策でない、とファンは考えていたからだ。

2010年から11年間を過ごしたリヨン時代、当時15歳の2018年8月(上)と19歳でトップチーム初出場(ELスパルタ・プラハ戦)を果たした2021年11月(下)のInstagram投稿。2022-23シーズンのリーグ1第29節では、パルク・デ・プランスでPSG相手に決勝ゴールを決めている

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Profile

小川 由紀子

ブリティッシュロックに浸りたくて92年に渡英。96年より取材活動を始める。その年のEUROでイングランドが敗退したウェンブリーでの瞬間はいまだに胸が痛い思い出。その後パリに引っ越し、F1、自転車、バスケなどにも幅を広げつつ、フェロー諸島やブルネイ、マルタといった小国を中心に43カ国でサッカーを見て歩く。地味な話題に興味をそそられがちで、超遅咲きのジャズピアニストを志しているが、万年ビギナー。

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