FIFAとUEFAの「人喰い」は進む。FIFPROが警告する超過密な近未来ディストピア
サッカーを笑え #27
国際プロサッカー選手会(FIFPRO)の欧州支部と欧州各国リーグが10月14日、欧州委員会にFIFAを訴えた。このタイミングで、FIFPROが9月『パフォーマンスと回復、選手の健康』というレポートを出しているので紹介したい。
※このレポートはここで読める。
https://FIFPRO.org/en/player-iq/men-s-player-workload-monitoring
過密日程がいかに選手を苦しめているかを追跡した初めての本格的な調査で、スペイン語版116ページの中から「面白い」と感じたものをピックアップする。「過密日程→負荷の増大」についてほとんどのページを割いていて、過密日程解消の最も重要な根拠になり得る「負荷の増大→ケガの増加」については十数ページだけ、というやや腰砕けのものだが、それでも十分な資料的価値がある。英語版も出ていて無料で読めるので興味がある人はぜひ。
このレポートの標的はFIFAとUEFA。負荷増の原因は、代表の試合とクラブの「国際試合」の増加としている。選手の体を蝕む様を「カニバリズム(人肉喰い)」という強い言葉で非難しているのには笑った。各国リーグは標的外。各国リーグの負荷=試合数は(クラブ数-1)×2で一定なので、負荷増の原因はCLやELなどの欧州カップ戦やW杯やクラブW杯の試合数増とされているわけだ。
「3%」or「20%」。代表戦の真の負荷とは?
ちょうど、今、スペインではルイス・デ・ラ・フエンテ代表監督の「3.5%論」が話題になっている。代表招集中に負傷したラミン・ヤマル(バルセロナ)について酷使を指摘され、「FIFAが40のリーグに対して12年間行った調査では、選手のプレー時間のうち代表が占める割合は3.5%でしかない」と発言。過密日程と酷使の問題は代表の問題ではない、としたのだ。デ・ラ・フエンテの言う「FIFAの調査」とは、正確には国際スポーツ研究センター(CIES)による『Number of matches and weight of organisers』で、ここのサマリーに「3.2%」という数字が出ている。
※このレポートはここで読める。
https://football-observatory.com/-Serie-
これに対してカタルーニャ系のメディアはヤマルの出場試合数79(トップチーム62+A代表17)のうち代表戦は17を占めているので21%である、と反論。他方、FIFPROのレポートではフィル・フォーデン(マンチェスター・シティ/イングランド代表)とフェデリコ・バルベルデ(レアル・マドリー/ウルグアイ代表)の例を挙げて、出場試合数ベースでの代表戦の割合を「22%」と「18%」(昨季実績値)としている。
3%と20%じゃあ大違いだ、どっちが正しいのか? これ、統計の詐術である。単純に分母が違うのだ。……
Profile
木村 浩嗣
編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。