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歴史的危機を乗り越えたアヤックス。ミスリンタート元TDの遺産も生きるファリオーリ新監督の就任効果

2024.10.20

VIER-DRIE-DRIE~現場で感じるオランダサッカー~#9

エールディビジの3強から中小クラブに下部リーグ、育成年代、さらには“オランイェ”まで。どんな試合でも楽しむ現地ファンの姿に感銘を受け、25年以上にわたって精力的に取材を続ける現場から中田徹氏がオランダサッカーの旬をお届けする。

第9回では、歴史的危機を乗り越えたアヤックスの今に注目。スベン・ミスリンタート元TDの遺産とフランチェスコ・ファリオーリ新監督の哲学が生む相乗効果に迫る。

 9月27日、5万4000人の大観衆で埋まったヨハン・クライフ・アレーナは、アヤックスが披露したスペクタクルなショーに酔いしれた。舞台はEL、相手はベシクタシュ。トルコの強豪相手にホームチームは多彩な攻撃を繰り広げ4ゴール。守りでは1本も枠内シュートを許さず4-1のスコアで快勝した。

 得点者はミカ・ホッズ(2ゴール/19歳/U-19ベルギー代表FW)、キアン・フィッツ・ジム(21歳/U-21オランダ代表候補MF)、ケネット・テイラー(22歳/オランダ代表MF)と若手の名前がズラリと並ぶ。彼らのメンター役でもあるラムコ・パスフェール(40歳/元オランダ代表GK)、ジョーダン・ヘンダーソン(34歳/元イングランド代表MF)の存在感も光った。

 若手とベテランのアンサンブルがピッチの上で美しく奏でたアヤックスをファンはスタンディングオベーションで称え、興奮で頬を紅潮させながら家路についた。

ベシクタシュ戦のハイライト動画

1997-98以来の外国人監督は哲学者

 今から1年前、アヤックスはクラブ史に残る危機に瀕していた。当時のスベン・ミスリンタートTD(テクニカルディレクター)が1億100万ユーロを費やして獲得した新戦力はことごとく不振に喘ぎ、しかもモーリス・スタイン監督(当時)との連携は皆無。これではチームとしての結果が出ない。昨年の9月24日には本拠でライバルのフェイエノールト相手に前半で0-3のビハインドを負い、後半にサポーターが暴れたことで残り時間を3日後にプレーすることに(最終結果は0-4)。試合中断後、フーリガンと化したウルトラスがスタジアムの正面玄関を破壊し、役員室に殴り込みをかけようとしたが、機動隊に阻止された。

 10月29日にはPSVに5-2で惨敗を喫しリーグ最下位に沈む。ミスリンタートはフェイエノールト戦後、スタインはPSV戦後にクラブを去った。2人とも、夏に入団したばかりだった。

 ジョン・ファン・ト・スヒップ暫定監督の下、エールディビジをなんとか5位で終え、今季のEL予選出場権を獲得したものの、名門の暖簾についた傷は大きい。アヤックスは新しい風を欲していた。

 今から思えばシャビ・エルナンデス(元バルセロナ監督)、エリック・テン・ハフ(マンチェスター・ユナイテッド監督)、グレアム・ポッター(元チェルシー監督)といった指導者たちとの交渉がまとまらなかった(もしくは噂だけに終わった)のは、結果論として良かったのかもしれない。代わりにフランチェスコ・ファリオーリへと白羽の矢が立ったからだ。

……

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Profile

中田 徹

メキシコW杯のブラジル対フランスを超える試合を見たい、ボンボネーラの興奮を超える現場へ行きたい……。その気持ちが観戦、取材のモチベーション。どんな試合でも楽しそうにサッカーを見るオランダ人の姿に啓発され、中小クラブの取材にも力を注いでいる。

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