2-9大敗を喫したディナモ・ザグレブのその後。過去に囚われず再登板!ビエリツァが演出した救出劇
炎ゆるノゴメット#10
ディナモ・ザグレブが燃やす情熱の炎に火をつけられ、銀行を退職して2001年からクロアチアに移住。10年間のザグレブ生活で追った“ノゴメット”(クロアチア語で「サッカー」)の今に長束恭行氏が迫る。
第10回では、9月17日のCL初戦でバイエルンに2-9の歴史的大敗を喫したディナモのその後を追う。
「ここ10年で最弱」から2冠に導いたヤキロビッチ前監督
新たなフォーマットで開幕した今季のCL第1節。ディナモ・ザグレブはバイエルンに「2-9」という歴史的敗北を喫してしまった。1試合9失点は大会新のワースト記録。日本のメディアは荻原拓也のCL初ゴールをもっぱら賛美したが、クロアチア(とその周辺国)のメディアは「恥辱」「惨劇」「面汚し」「不名誉」など、思いつく限りの暴言(周辺国のメディアにとっては“嘲笑”)をクロアチア王者に投げかけた。
時計の針を昨季にまで巻き戻そう。戦力整備の甘さや主力のスランプが重なり、シーズン序盤から国内外で苦戦を強いられたディナモだったが、ECLラウンド16でPAOKに敗れ、国内戦線に絞った後は連勝街道に乗った。解任危機を何度も乗り越えたセルゲイ・ヤキロビッチ監督はリーグとカップの国内2冠を達成。「ここ10年で最弱のディナモ」と言われながらもライバルのハイデュク・スプリトやリエカを抜き去っての逆転優勝にサポーターは快哉を叫び、17年ぶりに優勝パレードが行われるほどの喜びようだった。
2024-25シーズンは2年ぶりのCL出場に目標を定めたディナモ。予選参加クラブで最多のUEFAポイントを獲得していたことで、本来の2回戦ではなくプレーオフからスタートする「ファストパス」の特典を得た。そのお陰で従来より長めの休暇を選手たちは取得でき、フロントは戦力整備に腰を据えて取り組む。今年3月の会長選でクラブレジェンドのベリミール・ザイエッツが現職を破り、「黒幕」ズドラブコ・マミッチの残党をフロントから一掃すると、フランス市場に通じるマルコ・マリッチが長年空白だったSDのポストに就任。22-23シーズン以前のずさんな経営のツケで緊縮財政を強いられたものの、両者の知見に沿って、層の薄いポジションに的確な補強が重ねられた。
8月2日のクロアチアリーグ開幕戦でイストラを5-0で一蹴したディナモは、その後も破竹の勢いで勝ち進む。CLプレーオフの相手はアゼルバイジャンの刺客、カラバフだったが、内容以上の得点差(トータルスコア5-0)で退けた。8月の公式戦は実に6戦6勝。「国内4強」と並び称されるハイデュク、リエカ、オシエクは、いずれもECL予選で悪夢のような敗退を喫している。10クラブで構成されるクロアチアリーグは8月末の時点で「1強9弱」とささやかれ、ディナモのリーグ優勝に早くも当確ランプが灯された。
2戦13失点の「ブラックホール」突入で大本命に白羽の矢
ところが、9月に入った途端にディナモは「ブラックホール」に吸い込まれてしまう。……
Profile
長束 恭行
1973年生まれ。1997年、現地観戦したディナモ・ザグレブの試合に感銘を受けて銀行を退職。2001年からは10年間のザグレブ生活を通して旧ユーゴ諸国のサッカーを追った。2011年から4年間はリトアニアを拠点に東欧諸国を取材。取材レポートを一冊にまとめた『東欧サッカークロニクル』(カンゼン)では2018年度ミズノスポーツライター優秀賞を受賞した。近著に『もえるバトレニ モドリッチと仲間たちの夢のカタール大冒険譚』(小社刊)。