マレスカ・チェルシーの隠し味は、偽SBギュストとパーマーが作り出す「右のオーバーロード」
新・戦術リストランテ VOL.36
footballista創刊時から続く名物連載がWEBへ移籍。マエストロ・西部謙司が、国内外の注目チームの戦術的な隠し味、ビッグマッチの駆け引きを味わい尽くす試合解説をわかりやすくお届け!
第36回は、イタリア人監督のエンツォ・マレスカが就任し、4位と好スタートを切ったチェルシー。ペップ・シティでアシスタントコーチを務めていた44歳が手掛けたチームの現状を分析してみたい。
プレシーズンの段階では「それみたことか」状態
プレミアリーグ第7節終了時点で4位のチェルシー。インターナショナルウィーク明けには首位リバプールとの対戦を控えています。
マレスカ監督を迎えた今季、プレシーズンマッチの段階では正直どうなることやらと思っていました。
最近、「ペップの真似ばかりで面白くない」という話をちょいちょい見聞きするようになりました。アンチェロッティ監督も以前、「バルセロナを真似るのは危険」という発言をしていました。確かにグアルディオラ監督が率いていた頃のバルセロナは、そのインパクトの強烈さで多くの模倣者を生み出しましたが、結局のところ上手くいったところはなかったと記憶しています。
ペップ自身が率いるマンチェスター・シティでも、かつてのバルセロナの再現はできていません。ただし、その方式はバイエルンでもシティでも非常に有効でしたし、バルセロナではなくこちらに追随したチームはむしろある程度の成功を収めるようになっています。それはもはやペップの真似というより、普通の戦術の1つになっていると言っていいでしょう。そこに危険性を指摘する人は少なくなっていて、「面白くない」という個人の感想になっている気がします。
ただ、まったくリスクがないかといえばそうではありません。プレシーズンのチェルシーはまさにそんな感じでした。
マレスカ監督はシティでアシスタントコーチをしていた人ですから、いわばペップの直系です。ところが、ペップ式のビルドアップがプレシーズンの段階ではあまりにも覚束なく見えました。自陣でボールを失うことが多く、懐疑的な人々から「それみたことか」と言われそうな状態でした。
しかし、何とか開幕には間に合ったようで、現在でもまだ微妙なところはあるのですが、4勝2分1敗の4位。失点8はシティと同じですし、結果は出しています。
なぜか、ちょいちょい批判されがちなペップ式ですが、レバークーゼン、マルセイユ、スポルティング、ブライトンなどなど、わりとちゃんと成果は出ているんですね。むしろ非ペップ系のチームで躍進しているという方が少数派ではないでしょうか。
「距離感が違う」パーマーはソクラテスに近い
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Profile
西部 謙司
1962年9月27日、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、会社員を経て、学研『ストライカー』の編集部勤務。95~98年にフランスのパリに住み、欧州サッカーを取材。02年にフリーランスとなる。『戦術リストランテV サッカーの解釈を変える最先端の戦術用語』(小社刊)が発売中。