“王子”ミリートの一大決心。愛するクラブの会長になるということ
EL GRITO SAGRADO ~聖なる叫び~ #9
マラドーナに憧れ、ブエノスアイレスに住んで35年。現地でしか知り得ない情報を発信し続けてきたChizuru de Garciaが、ここでは極私的な視点で今伝えたい話題を深掘り。アルゼンチン、ウルグアイをはじめ南米サッカーの原始的な魅力、情熱の根源に迫る。
footballista誌から続くWEB月刊連載の第9回(通算168回)は、現役引退から8年、古巣ラシンの次期会長選立候補を表明した45歳のレジェンド、ディエゴ・ミリートの「愛」と「アイディア」について。
「ラシンのファンとソシオのみなさん、こんにちは。このたび私は、12月に行われる次期会長選挙に出馬することを決めました。これは心と頭で下した決断です」
去る8月22日、ディエゴ・ミリートは、最愛の古巣ラシンをサポートするすべての人々に向けて動画メッセージを発信し、クラブの会長に立候補する意思を表明した。「心」とはラシンに抱く愛、「頭」とは確固たるアイディアを意味している。
彼が自身の背番号でもある“22”日に重大発表を行うのは、これが初めてではない。4年前、それまで務めていたラシンのセクレタリア・テクニカ(強化技術部)のディレクター職から辞任する決心を伝えたのも11月22日だった。あの日ミリートは、自分をディレクターに抜擢し、強化に向けてともに汗を流し、5年ぶりのリーグ優勝を一緒に祝ったビクトル・ブランコ会長と「アイディアが異なる」との理由から別の道を歩む決意を固めた。そして今、来たる12月15日に行われる会長選でブランコ会長と争う姿勢を明らかにしたのである。
「私たちの組織の運命を決めるのはソシオ以外にありません」
“El Príncipe”(王子)のニックネームで敬愛されるミリートはラシンのレジェンドだ。クラブの下部組織出身で、35年間の無冠に終止符を打った2001年リーグ優勝時のメンバーであり、欧州での輝かしいキャリアを経て2014年に復帰するやキャプテンとしてチームを背負い、自身にとってもクラブにとっても13年ぶりとなるリーグ制覇を達成し、2003年大会以来となるコパ・リベルタドーレス出場権を獲得。現役を引退した2016年にはその功績が称えられ、ホームスタジアム横の道路に“Diego A. Milito”の名前が付けられた。
ところが、次期会長に立候補したことについては、ラシンのソシオの間でも意見が真っ二つに分かれている。2013年の会長就任から11年間に5つの国内タイトルを獲得した他、クラブを深刻な財政難から救い出したブランコ政権を支持する人々は、役員の経験がないミリートの決断を無謀と捉える他、その背後に政治的な企みが存在すると考えているのである。……
Profile
Chizuru de Garcia
1989年からブエノスアイレスに在住。1968年10月31日生まれ。清泉女子大学英語短期課程卒。幼少期から洋画・洋楽を愛し、78年ワールドカップでサッカーに目覚める。大学在学中から南米サッカー関連の情報を寄稿し始めて現在に至る。家族はウルグアイ人の夫と2人の娘。