集中豪雨でピッチに巨大な穴。“フットボール沈没”を招きかねない環境問題
Good Times Bad Times 〜フットボール春秋〜 #9
プレミアリーグから下部の下部まで、老いも若きも、人間も犬もひっくるめて。フットボールが身近な「母国」イングランドらしい風景を、在住も25年を超えた西ロンドンから山中忍が綴る。
footballista誌から続くWEB月刊連載の第9回(通算243回)は、先日ロンドンにも洪水被害をもたらした「気候危機」に対して今、英サッカー界が取り組むこと、そしてサッカーで結びつく我われができること。
2050年までにプレミア数クラブがピッチ水没で“ホーム”を失う!?
コーナーフラッグの手前にバンカー!? 巨大な陥没穴が空いたピッチの報道写真は、まるでゴルフコースとの合成写真のように見えた。しかし、それがAFCウィンブルドン(4部)のホーム、プラウ・レーンを襲った現実だ。
去る9月22日の夜から、24時間で通常の1カ月分を超す量の降雨に見舞われた結果だった。当然、その2日後に予定されていたリーグカップ戦から、少なくとも2週間はホームゲーム開催が不可能となった。
イングランドの庶民にとって、「わがクラブ」のホームは単なる週に1度の試合会場などではない。地元コミュニティの結節点であり、具現化された心の拠り所と表現してもよい。クラウドファンディングで集まった寄付金は、本稿執筆時点で12万ポンド(約2300万円)。小規模な市民クラブを援助すべく、全国から寄せられた当初目標額の12倍という金額が、「サッカーの母国」における同情心を物語る。
同時に、「明日はわが身」との危機感も。
気候変動の分野で第一人者とされる英国人の学説によれば、国内プロリーグ(4部まで)の計92チームは、その4分の1程度が、海面上昇の影響で定期的なホームゲーム開催が難しくなる日が遠くない。2050年までには、プレミアリーグの数クラブがピッチ水没で“ホーム”を失うことになるという。この学者の予言通りとなれば、“フットボール沈没”とも言うべき一大事だ。
英国には、もともと雨の多いイメージがある。だが昔は、小雨が降ったり止んだりの繰り返しだった。筆者が移住した1990年代も、そう。当初は会社勤めの日々だったが、スーツ姿でも傘をさすことは滅多になかった。それが今では、降るとなれば本降り。駅のキオスクでは、30年前とは違って折り畳み傘が普通に売られている。……
Profile
山中 忍
1966年生まれ。青山学院大学卒。90年代からの西ロンドンが人生で最も長い定住の地。地元クラブのチェルシーをはじめ、イングランドのサッカー界を舞台に執筆・翻訳・通訳に勤しむ。著書に『勝ち続ける男 モウリーニョ』、訳書に『夢と失望のスリー・ライオンズ』『ペップ・シティ』『バルサ・コンプレックス』など。英国「スポーツ記者協会」及び「フットボールライター協会」会員。