名(迷)采配続くシメオネの「4つの原則」とは?アトレティコ14季目の“介入”に関する考察
サッカーを笑え #26
ディエゴ・シメオネがシーズン途中に就任した11-12(5位)以来のリーグ戦トップ3圏外(4位)で昨季を終え、今夏には移籍金総額1億8500万ユーロ(約296億円)もの大型補強を敢行したアトレティコ・マドリー。4勝4分という開幕無敗スタートを、その“いじり過ぎ”にも見える指揮官の采配を、どう評価すべきか?
シメオネはスペインでは「インテルベンシオニスタ (intervencionista)」=「介入主義者」と呼ばれる。かつては[4-4-2]の一本槍で、スタメンも「ジエゴ・コスタ……ガビ……ゴディン……クルトワ」と暗唱できるほどだった彼も3強入りし新スタジアムが誕生し大型補強ができるようになると、5バックを取り入れるなど手を替え品を替えとチームを盛んにいじるようになった。戦術家の定義はいろいろあると思うが、並びと顔ぶれを変えることが戦術でそれが多彩であることが戦術家だとするなら、シメオネは「稀代の戦術家」と呼べるだろう。
特に今季は手駒が豊富になった分、介入主義者たる彼の腕の見せどころなのだが、問題はそれがチームの結果に繋がっていないこと。せっかくの新戦力フリアン・アルバレスもアレクサンダー・セルロートも攻撃力のアップに結び付いていない一方で、コナー・ギャラガーとロビン・ル・ノルマンがすんなり戦力化したことは、「まずは守備」というシメオネらしさのせいと言える。先日のマドリッドダービー1-1のドロー、おそらくアトレティコ・マドリーファンなら欲求不満が溜まる戦いぶり、レアル・マドリーに先制されて後半アディショナルタイムに追いついて“お疲れさん、喜んだのはバルセロナばかり”というダービーでのシメオネの介入ぶりは、名采配なのか迷采配なのかわからない今季の典型例だった。
原則1:トリオがせいぜい、夢のカルテットは無理
CFのセルロート、セカンドトップのアルバレスが加わって、トップ下のアントワーヌ・グリーズマンとドリブラーのサムエウ・リノが健在、となると“さあこのカルテットをどう組み込むか?”と腕を鳴らすのが普通で、それはムバッペとビニシウスとロドリゴとベリンガムをどう組み合わせるかと思案しているアンチェロッティと同じ立場なのだが、シメオネは違う。4人衆のそろい踏みなんてとんでもない。失点しないことを最優先として駒を並べていくとトリオですら危なく、4人目なんて入る余地がない。ビニシウスとロドリゴが左サイドのドリブラーと役割が重なっているアンチェロッティに比べ、役割が見事にばらけているシメオネの場合は、3人でも4人でも共存させ放題だと思えるが、そうなってはいない。
マドリッドダービーの先発はこうだった([4-4-2]、中盤から前の6人の並び)。
セルロート グリーズマン
アルバレス デ・パウル
ギャラガー ジョレンテ
「ついに3アタッカーそろい踏み!」が解説者の評価だった。そう、リーガ8試合目にしてアルバレス、セルロート、グリーズマンが先発で顔をそろえたのは初めてだったのだ。……
Profile
木村 浩嗣
編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。