カタノサッカー・フェーズ2、エコロジカルなチーム作りが直面した「大きな壁」
トリニータ流離譚 第17回
片野坂知宏監督の下でJ3からJ2、そしてJ1へと昇格し、そこで課題を突きつけられ、下平隆宏監督とともにJ2で奮闘、そして再び片野坂監督が帰還する――漂泊しながら試練を克服して成長していく大分トリニータのリアルな姿を、ひぐらしひなつが綴る。第17回は、「監督が戦術を提示すると選手はそれしかできなくなってしまう」という課題から出発した選手主導のエコロジカルなチーム作りが直面した「大きな壁」について考察してみたい。
9月28日開催のJ2第33節・藤枝MYFC戦に、大分トリニータは2-0で勝利した。実に7試合ぶりの白星で、これがようやく今季ホーム3勝目。クリーンシートは第28節のファジアーノ岡山戦以来、完封勝利は第23節のいわき戦以来だった。
リーグ戦残り5試合にして8勝12分13敗の勝ち点36で17位。J3自動降格圏の18位・栃木SCとの勝ち点差はわずか6だ。第33節の1日目に16位の大分が勝利して20位・ザスパ群馬との勝ち点差が19となったため、群馬は第33節2日目のロアッソ熊本戦を戦う前にJ3降格が決定した。19位・鹿児島ユナイテッドFCは勝ち点26で、栃木とともにまだJ2残留の可能性を残している。気になるのは5連敗とここにきて急激に失速し、勝点38で足踏みしている16位・愛媛FCだ。15位の水戸ホーリーホック、14位のヴァンフォーレ甲府は降格圏まで勝ち点9差。シーズンを通して不安定な戦いぶりを続けてきたロアッソ熊本が第31節から4連勝して一気に12位にまでジャンプアップした中、まだ完全に安全圏とは言えず、それぞれの今後の対戦カードも含め、優勝や昇降格のタイミングも気になってくる。
今季のチーム始動当初はまさかこの時期に残留争いに巻き込まれているとは予想だにしなかった。
3シーズンぶりに大分で指揮を執る片野坂知宏監督の下、まずは堅実にプレーオフ圏からJ1昇格を目指していくプランでスタート。だが、主力候補が次々に負傷し、複数名の長期離脱者を含めてメンバーが入れ替わり立ち替わりという状態に。シーズン序盤には特別指定選手の有働夢叶や木本真翔も頻繁に駆り出され、夏には十数名が離脱しているという時期もあった。
そんなチーム状態では、スタイルのベースを築くことは難しい。今季は4バックシステムでの戦術浸透を目指していたが、SBに負傷者が多発したことも引き金となって第22節からは本格的に3バックシステムに変更し、その時どきにプレーできるメンバーの特徴によって戦い方も変えた。「積み上げができていない」と、指揮官は表情に苦しさをにじませた。
「3バックのミドルブロック→ハイプレス」試行錯誤が続く
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Profile
ひぐらしひなつ
大分県中津市生まれの大分を拠点とするサッカーライター。大分トリニータ公式コンテンツ「トリテン」などに執筆、エルゴラッソ大分担当。著書『大分から世界へ 大分トリニータユースの挑戦』『サッカーで一番大切な「あたりまえ」のこと』『監督の異常な愛情-または私は如何にしてこの稼業を・愛する・ようになったか』『救世主監督 片野坂知宏』『カタノサッカー・クロニクル』。最新刊は2023年3月『サッカー監督の決断と采配-傷だらけの名将たち-』。 note:https://note.com/windegg