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デ・ゼルビのマルセイユ、さらに尖り具合を増す「擬似カウンター」の仕組み

2024.10.02

新・戦術リストランテ VOL.35

footballista創刊時から続く名物連載がWEBへ移籍。マエストロ・西部謙司が、国内外の注目チームの戦術的な隠し味、ビッグマッチの駆け引きを味わい尽くす試合解説をわかりやすくお届け!

第35回は、ブライトンからマルセイユに活躍の場を移したデ・ゼルビのサッカーにフォーカス。高いボール支配率だけどシュートは少ない、でも確実に仕留める――さらに尖り具合を増す「疑似カウンター」の仕組みを解読してみよう。

勝利至上主義なのにロマン派好きの矛盾

 今季、ここまでリーグ戦6試合を消化して4勝1分1敗。1位パリSG、2位モナコに次いで3位につけています。昨季は8位フィニッシュだったので、まずまずのスタートと言っていいのではないでしょうか。

 今季から指揮を執るのはロベルト・デ・ゼルビ。昨季までブライトンを率いていたイタリア人です。デ・ゼルビ監督はイタリアの下部リーグを歴任後、セリエAのサッスオーロを率いて注目されました。グアルディオラ風の戦術はイタリアでは異質。そのため賛否両論あったのですが、ブライトンでの成功で一気に声望が高まりました。

 マルセイユがデ・ゼルビに目をつけたのは「いかにも」という感じがします。

 マルセイユのファンは熱狂的かつ結果至上主義で知られています。ところが、歴代監督にはロマン派が実に多い。マルセロ・ビエルサ(14-15)、アンドレ・ビラス・ボアス(19-21)、ホルヘ・サンパオリ(21-22)がそうですし、それ以前にはフィリップ・トルシエ、アラン・ペランと異端児系をずいぶん招聘しています。新進気鋭とか奇才とか、そういう監督がなぜか大好きみたい。

 デ・ゼルビ監督は結果を残してきたとは言い難い。3シーズン指揮を執ったサッスオーロでも11位、8位、8位。ブライトンは6位、11位。どちらも上位クラブではないので成功と言えるかもしれませんが、これといったタイトルは獲っていません。あくまでやっているサッカーが面白いという評価の人です。

 じっくり腰を据えてチームを強化していこうというなら良いと思います。ところが、マルセイユは全然そういうクラブではない。そのつもりがあってもファンが許してくれませんからね。短期的に結果を出さなければいけないのにロマン派監督を起用してしまうのは不思議ですが、だから上手くいかないのかもしれません。

 ただ、今のところデ・ゼルビ監督の起用は結果の面でも成果を出しています。

リヨン戦後にガッツポーズを見せるデ・ゼルビ監督(右写真)

デ・ゼルビのサッカーを凝縮した「不思議なスタッツ」

……

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Profile

西部 謙司

1962年9月27日、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、会社員を経て、学研『ストライカー』の編集部勤務。95~98年にフランスのパリに住み、欧州サッカーを取材。02年にフリーランスとなる。『戦術リストランテV サッカーの解釈を変える最先端の戦術用語』(小社刊)が発売中。

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