初めて尽くしの川崎フロンターレで即フィット。河原創が過ごした激動の1カ月
フロンターレ最前線#8
「どんな形でもタイトルを獲ることで、その時の空気感を選手に味わってほしい。次の世代にも伝えていってほしいと思っています」――過渡期を迎えながらも鬼木達監督の下で粘り強く戦い、再び優勝争いの常連を目指す川崎フロンターレ。その“最前線”に立つ青と黒の戦士たちの物語を、2009年から取材する番記者のいしかわごう氏が紡いでいく。
第8回では今夏にサガン鳥栖から電撃加入した河原創について。新たなリンクマンとして早くもフィットしつつある即戦力が過ごした激動の1カ月を振り返る。
J1第31節の名古屋グランパス戦後のミックスゾーン。
「あのエネルギーはどこから来ているんですか?」
思わず、河原創にそう尋ねてしまった。
この試合終盤、川崎Fは2点のビハインドを追いかける展開で退場者が出てしまい、10人での戦いを強いられた。
ミッドウィークにはACLエリートの初戦を韓国で迎えており、Kリーグ王者である蔚山HDとの死闘(〇1-0)を演じている。敵地のピッチは酷く荒れており、帰国後も足や膝に疲労が残っていることを口にする選手もいたほどだったが、チームは十分に休む時間もなく、名古屋でのリーグ戦がやってきた。
過酷なアウェイ連戦。時間の経過とともに選手たちも、さすがに疲労の色を隠せなくなっていた。
足が止まり始めるチームメイトも少なくない中、中盤で人一倍ハードワークし続けていたのが河原だった。異国の地でフル出場を果たしていたにもかかわらず、数的不利の苦境で、ギアを上げるかのように攻守に汗をかき続けた。その姿は感動的ですらある。それで思わず「あのエネルギーはどこから来ているんですか?」と尋ねてしまったのだ。
当の本人は「わからないです」と苦笑いを浮かべたが、こちらが「もちろん、疲れはありますよね」と確認すると、「ないと言ったら嘘になりますけど、試合に出てる以上は関係ないかな」と意に介さない様子。なんとも河原らしい言葉に聞こえた。きっと、彼にとっては普通のことなのだろう。
「本当に出ていっていいのか」電撃移籍は苦渋の決断
振り返ってみると、この9月は河原自身にとっても激動の1カ月だったと言える。
サガン鳥栖からの電撃加入が発表されたのは、8月20日のことだ。
「このタイミングでチャレンジしたい思いがある中で、フロンターレから声をかけてもらいました。何回か対戦をしていて上手いなという印象をもっていましたし、ここでプレーしてみたいと思っていました」
合流初日の練習後、囲み取材に応じた本人はそう明かしている。
熊本県出身。大津高から福岡大を経てプロではロアッソ熊本、鳥栖というサッカーキャリアを歩み続けてきた男は、初めて九州の地を飛び出てサッカーをすることを選択した。
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Profile
いしかわごう
北海道出身。大学卒業後、スカパー!の番組スタッフを経て、サッカー専門新聞『EL GOLAZO』の担当記者として活動。現在はフリーランスとして川崎フロンターレを取材し、専門誌を中心に寄稿。著書に『将棋でサッカーが面白くなる本』(朝日新聞出版)、『川崎フロンターレあるある』(TOブックス)など。将棋はアマ三段(日本将棋連盟三段免状所有)。Twitterアカウント:@ishikawago