マルチスポーツ型トレーニングって何?育成段階で多様な運動能力を身につけるメリット
トレーニングメニューで学ぶエコロジカル・アプローチ実践編#10
23年3月の『エコロジカル・アプローチ』出版から約1年、著者の植田文也氏は同年に盟友である古賀康彦氏の下で再スタートを切った岡山県の街クラブ、FCガレオ玉島でエコロジカル・アプローチの実践を続けている。理論から実践へ――。日本サッカー界にこの考え方をさらに広めていくために、同クラブの制約デザイナーコーチである植田氏と、トレーニングメニューを考案しグラウンド上でそれを実践する古賀氏とのリアルタイムでの試行錯誤を共有したい。
第10回は、エコロジカル・アプローチの観点から見た育成年代でマルチスポーツを経験するメリット、そして実際に2人が運営するFCガレオ玉島で実践している具体的なトレーニングメニューを紹介してみたい。
発達期にオールラウンドな運動能力を獲得すると…
植田「今回はサッカーの枠を超えてマルチスポーツについて語りたいと思う」
古賀「1つの競技だけではなく、複数の競技やアクティビティに参加するマルチスポーツね」
植田「そうそう。昔は若い年代から1つの競技に絞ってしまった方が高いレベルに到達できると言われていたんだけど、今では逆にマルチスポーツでいろいろな運動能力を養って、年代が上がるにつれて少しずつ1つの競技に特化していくような発達過程の方がより高いレベルに到達できると言われているよ。ちなみに次の表はそうしたマルチスポーツを経験してきたエリートアスリートの一覧だね」
古賀「将来プロとして成功したターゲットスポーツ以外にもいろいろな競技に参加しているね」
植田「そう。将来のターゲットスポーツとは一見関係のないようなスポーツも含めて参加することでよりオールラウンドな運動能力を養うことができると言われているよ」
古賀「そこでオールラウンドな運動能力を獲得しておけば、後に特化する競技の土台をつくることができる、もし子供の頃に獲得する能力に偏りがあれば、後に特化するスポーツでも限定的な専門性しか獲得できない、というイメージだよね」
植田「まさにその通り。より詳細にいうと、運動能力は掛け合わさって新たな運動能力になると言われているよ。イメージでは下の図1のように単一の競技では獲得できないスキルが生まれる。他の競技との相互作用(能力の掛け合わせ)によってという感じ」
イブラヒモビッチがテコンドーで身につけた独自の解決策
古賀「わかりやすいのはイブラヒモビッチのテコンドーとかかな。彼が子供の頃にテコンドーをやっていたことで、ゴール前でサッカーのキックというよりは格闘技の蹴りのような独自のソリューション(解決策)を見せることかな」
植田「そうだね。この場合はテコンドーの蹴りとサッカーのキックが掛け合わさって新たなユニークなソリューションが生まれた例だね。ちなみに、これは創発現象(Emergence)と呼ばれていて、生態系、アリのコロニー、鳥の群れ、金融市場、ソーシャルメディア、気象システム、銀河系における秩序形成などでも見られる現象だよ。我々の身体もこうした創発現象の典型例と言えるんだ。まぁ、複雑な物事においてパターンができ上がる際の基本原理と言われているよ」
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Profile
植田 文也/古賀 康彦
【植田文也】1985年生まれ。札幌市出身。サッカーコーチ/ガレオ玉島アドバイザー/パーソナルトレーナー。証券会社勤務時代にインストラクターにツメられ過ぎてコーチングに興味を持つ。ポルトガル留学中にエコロジカル・ダイナミクス・アプローチ、制約主導アプローチ、ディファレンシャル・ラーニングなどのスキル習得理論に出会い、帰国後は日本に広めるための活動を展開中。footballistaにて『トレーニングメニューで学ぶエコロジカル・アプローチ実践編』を連載中。著書に『エコロジカル・アプローチ』(ソル・メディア)がある。スポーツ科学博士(早稲田大学)。【古賀康彦】1986年、兵庫県西宮市生まれ。先天性心疾患のためプレーヤーができず、16歳で指導者の道へ。早稲田大学大学院スポーツ科学研究科でコーチングの研究を行う。都立高校での指導やバルセロナ、シドニーへの指導者留学を経て、FC今治に入団。その後、東京ヴェルディ、ヴィッセル神戸、鹿児島ユナイテッドなど複数のJリーグクラブでアカデミーコーチやIDP担当を務め、現在は倉敷市玉島にあるFCガレオ玉島で「エコロジカル・アプローチ」を主軸に指導している。@koga_yasuhiko(古賀康彦)、@Galeo_Tamashima(FCガレオ玉島)。