浅野拓磨がマジョルカで見せる「しつこさ」と「頭の良さ」。日本人のサッカーインテリジェンスの正体
サッカーを笑え #25
ドイツのボーフムから渡った初参戦の地スペインで、リーグ開幕から全6試合に出場。日に日に評価を高める29歳の日本代表FWが、この1カ月間で披露してきたレギュラー確保の決め手、そして期待したい「次の一手」とは?
私の浅野拓磨評は少しずつ変化していった。
まずレアル・マドリー戦「上々のデビュー」、オサスナ戦「レギュラー争い中」、セビージャ戦「レギュラー確保」、レガネス戦とビジャレアル戦とソシエダ戦「安定のパフォーマンス」というふうに。今は先発争いに完全勝利した彼の次の一歩を待っているところだ。
6試合出場でうち先発4試合、途中出場2試合(ともに週中の試合でローテーション)、プレー時間321分、ゴールとアシストはいずれもない。試合ごとのポジションとプレー時間は次の通り。
■第1節:レアル・マドリー戦(△1-1)
[4-3-3]の1列目
ダニ・ロドリゲス ムリキ 浅野拓磨
(先発72分間)
■第2節:オサスナ戦(●1-0)
[4-3-3]の1列目
ダニ・ロドリゲス ムリキ 浅野拓磨
(先発62分間)
※頻繁にダニ・ロドリゲスとポジションチェンジ
■第3節:セビージャ戦(△0-0)
[4-3-3]の1列目
ダニ・ロドリゲス ムリキ 浅野拓磨
(途中25分間)
■第4節:レガネス戦(○0-1)
[4-2-3-1]の2列目
ムリキ
ドメネク ダニ・ロドリゲス 浅野拓磨
(先発72分間)
■第5節:ビジャレアル戦(●1-2)
[4-3-3]の1列目
ドメネク ムリキ 浅野拓磨
(先発63分間)
※前半は右サイド、後半は左サイド
■第7節:ソシエダ戦(○1-0)
[4-4-2]の1列目
ムリキ 浅野拓磨
(途中27分間)
新監督がムリキの相棒に求める“仕事”
以下、評を細かく。日本のファンのみなさんよりも浅野について不勉強なところは「新鮮さ」というふうに受け取っていただけたら幸いです。
まず開幕節レアル・マドリー戦以降スムーズにスペインデビューできている、ということについては、マジョルカとジャゴバ・アラサテ監督のスカウティングの確かさ、という点を強調しておきたい。攻撃の絶対的な柱である巨人ムリキの周りで動いてくれ、かつコンビができるウインガーが欲しい、というプロファイリングが明確だったので、浅野に白羽の矢を立て想定通りフィットしたので迷わず先発させた、というところだろう。
昨季までのハビエル・アギーレ監督(現メキシコ代表監督)はカウンター色が強く[5-3-2]で最終ラインも低く、前線の2枚で攻撃を完結させられるようムリキの相棒としてはセカンドトップタイプを求めていた。浅野とポジション争いをするサイル・ラリンがこのタイプだ。新監督になり、4バックで最終ラインもハイラインが基本で、GKからのボール出しも諦めず、ムリキへのロングボールは主要な武器ながらもカウンターを防がれた後にはポゼッションに移行する、というスタイルに変化した。それによってムリキの相棒はウインガータイプとなって、求められるものも変化した。
その一つがサイドの守備だ。
浅野のレアル・マドリー戦での守備は素晴らしかった。ビニシウス、ムバッペだけでなくベリンガムやロドリゴまでもが浅野のサイドを使ってきた。同僚の右SBパブロ・マフェオを孤立させないよう、サイドを駆け下りてのサポートが欠かせなかった。マジョルカのような残留目標のチームでは、いかなる攻撃タレントでも守備が計算できないと戦力にならない。
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Profile
木村 浩嗣
編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。