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「ドン底状態」のゼルビアを救ったのは、2人の古参メンバーだった――中島裕希&福井光輝が繋ぐ“勝利のバトン”

2024.09.19

ゼルビア・チャレンジング・ストーリー 第16回

町田の名を全国へ、そして世界へ轟かせんとビジョンを掲げ邁進するFC町田ゼルビア。10年以上にわたりクラブを追い続け波瀾万丈の道のりを見届けてきた郡司聡が、その挑戦の記録を紡ぐ。

第16回は、7月20日のJ1第20節横浜F・マリノス戦から公式戦7試合で1勝(3分3敗)と“停滞期”に入ってしまったチームの危機に抜擢を受け、バイオリズムを変える奮闘を見せた2人、中島裕希と福井光輝の献身に焦点を当てる。

 林幸多郎のロングスローから生じたゴール前でのルーズボール。そのボールの軌道を確認した中島裕希には確信があった。

 「相手に競り勝ち、強引にでも折り返すことで何かが起こる」

 松岡大起との競り合いを制した中島からの折り返しのボールを、藤本一輝が左足で決めた。先制点の歓喜に湧く町田イレブン。J1第30節アビスパ福岡戦で51分の先制点を皮切りに計3ゴールを積み重ね、0-3で試合を制すと、チームに朗報が舞い込んだ。

 わずか1節での首位返り咲き――。他会場でサンフレッチェ広島が鹿島アントラーズと引き分けたため、前節終了後、広島に奪われていた首位の座を町田が奪還した。

 藤尾翔太を出場停止で欠く福岡戦で、2トップの一角に先発起用された背番号30。今季リーグ戦初先発のチャンスは、直前の公式戦だったアルビレックス新潟とのルヴァンカップ準々決勝第2戦の勝利に貢献していた功績を買われた格好だ。

 時は遡り2017年、中島は福岡の地でわずか8分間でのハットトリックを達成。福岡戦での得点率が高く、“アビスパキラー”として恐れられてきたが、初先発のタイミングがまさにその福岡戦と重なったのは、運命のいたずらだろうか。

 無得点ながらも、先制点をアシストし、その称号の面目を保ったように映ったが、中島本人は「決めたかったし、それができてようやく“アビスパキラー”と言えるのではないでしょうか」と謙遜した。

 40歳とは思えぬ活動量とプレス強度で縦横無尽にベススタのピッチを駆け回った中島は、確かに福岡戦勝利の立役者となった。ただその功績は、ほんの一面を捉えたに過ぎない。時計の針を少しだけ戻し、ルヴァンカップ準々決勝第2戦を迎えるまでのチーム状況まで遡らない限り、真の意味での中島の功績を語ることはできない。

続いた“あってはならない失点”の数々

……

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Profile

郡司 聡

編集者・ライター。広告代理店、編集プロダクション、エルゴラッソ編集部を経てフリーに。定点観測チームである浦和レッズとFC町田ゼルビアを中心に取材し、『エルゴラッソ』や『サッカーダイジェスト』などに寄稿。町田を中心としたWebマガジン『ゼルビアTimes』の編集長も務める。著書に『不屈のゼルビア』(スクワッド)。マイフェイバリットチームは1995年から96年途中までのベンゲル・グランパス。

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