柔のジルクゼーか?剛のブロビーか?待望のストライカー論争勃発でオランダ代表は一皮剥ける
VIER-DRIE-DRIE~現場で感じるオランダサッカー~#8
エールディビジの3強から中小クラブに下部リーグ、育成年代、さらには“オランイェ”まで。どんな試合でも楽しむ現地ファンの姿に感銘を受け、25年以上にわたって精力的に取材を続ける現場から中田徹氏がオランダサッカーの旬をお届けする。
第8回では、オランダ代表の9月シリーズでともに鮮烈なインパクトを残したジョシュア・ジルクゼーとブライアン・ブロビーの若手ストライカーが繰り広げるポジション争いを読む。
2カ月前、オランダはイングランドに1-2で惜敗しベスト4でEURO2024を去った。中盤の大黒柱フレンキー・デ・ヨングをはじめとする多くの主力を負傷で欠いたこともあり大会前の期待値は低く、グループステージも3位で辛うじて突破。旧フォーマットなら早々に欧州王者決定戦の舞台から姿を消していただろう。そんなチームがラウンド16のルーマニア戦(0-3)で会心の大勝を収め、準々決勝のトルコ戦(2-1)では全員が体を張ってリードを守り抜いたことで国民の支持と共感を取り戻し、準決勝の舞台ドルトムントには12万5000人ものオランダ人が集結した。
こうしたひと夏の経験によってオランダは一皮剥けるのかもしれない。9月、再びオレンジのユニホームに身をまとった彼らは、9月7日のボスニア・ヘルツェゴビナ戦をスペクタクルな攻撃的サッカーで5-2というスコアで粉砕し、3日後にはドイツと一歩も引かぬ好勝負を披露。2-2で引き分けている。
『NOS』局で解説を務めたラファエル・ファン・デル・ファールト、ピエール・ファン・ホーイドンク、テレビ局のインタビューに応じたロビン・ファン・ペルシ(現ヘーレンフェーン監督)など、かつてのビッグネームたちがドイツ戦後、「面白かった。とてもポジティブな印象が残った」と口々に語ったほど、9月シリーズのオランダ代表に人々は心踊らせた。
柔のジルクゼーが演出した「これ以上ない完璧な夜」
パトリック・クライファートか、それともルート・ファン・ニステルローイか。ファン・ペルシか、それともクラース・ヤン・フンテラールか……。オランダは一時代に世界的なストライカーを複数そろえ、起用法に苦悩することが幾度もあった。しかし近年は弱点へと変わり、10番あるいは11番タイプのメンフィス・デパイに頼りっきり。歴代2位の代表46ゴールというスタッツは素晴らしいが、「世界的なストライカーか?」と問われると「イエス」とは答え難い。
だが、9月シリーズでジョシュア・ジルクゼー(マンチェスター・ユナイテッド)とブライアン・ブロビー(アヤックス)が規格外のプレーを披露したことで、久しぶりにオランダ国内は「定位置を奪うのはジルクゼーか?それともブロビーか?」という話題で白熱している。
ロナルド・クーマン監督が「2人はまったく異なるタイプのストライカー」と言うように、ジルクゼーは中盤に引いたりしながら味方との鮮やかなコンビネーションを交えたテクニックでゴールを攻略する技巧派タイプ。一方、ブロビーはDFを背負ってもビクともしない強靭なフィジカルを武器にポストプレーをしたり、相手の体をテコに反転してシュートを撃ったりできる本格派だ。……
Profile
中田 徹
メキシコW杯のブラジル対フランスを超える試合を見たい、ボンボネーラの興奮を超える現場へ行きたい……。その気持ちが観戦、取材のモチベーション。どんな試合でも楽しそうにサッカーを見るオランダ人の姿に啓発され、中小クラブの取材にも力を注いでいる。