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柏レイソルのブラジル人10番の系譜を受け継ぐ王様。マテウス・サヴィオが兼ね備える創造性と献身性

2024.09.11

太陽黄焔章 第16回

2019年7月。その男が初めて柏の地を踏んだ時、のちにクラブにとってここまでの存在になることを誰が予想し得ただろうか。今や柏レイソルのみならず、Jリーグ屈指の10番として魔法の杖を振るい続けているマテウス・サヴィオのことだ。圧倒的な攻撃のスキルと、守備でも全力を出し尽くす献身性で、文字通りチームの大黒柱として躍動し続けるこのブラジリアンの魅力を、おなじみの鈴木潤が周囲の声も交えて説き明かす。

クラブ史に名を刻むであろうブラジル人10番の凄み

 5対5のシュートゲーム。狭いエリアでのトレーニングだからこそ、洗練されたテクニックが際立っていた。

 激しいプレッシャーの中でもボールを失わず、たとえ前を塞がれたとしても、足裏を使ったトリッキーなプレーで並走する味方選手にパスを通す。また、相手GKがわずかでも前に出ていることを見極めれば遠目からシュートを狙い、さらにゴール前で激しいマークを受けながらも瞬時の判断でループシュートを放つなど、攻撃のアイデアは豊富だ。

2024シーズンのJ1開幕節・京都戦で、相手GKも見送るしかない芸術的なコントロールショットをペナルティエリア外から蹴り込むサヴィオ。柏での通算成績は157試合32ゴール31アシスト

 9月5日、約1カ月ぶりにオープンになった公開練習にて、間近で見るからこそ、マテウス・サヴィオの凄みが特に感じられた。

 現在のJリーグにおいて、サヴィオはトップ・オブ・トップの実力者と言っても過言ではない。2年連続で20得点以上を記録したエジウソン、“魔術師”の異名どおり華やかなプレーで観衆を魅了したフランサ、2011年JリーグMVPのレアンドロ・ドミンゲス。柏レイソルのブラジル人10番の系譜を受け継ぎ、サヴィオもクラブ史にその名を刻むことになるのは間違いない。

負傷に苦しんだ2020年。そして、レイソルとの絆は強固となる

 サヴィオが柏にやってきたのは、2019年の7月である。

 U-20ブラジル代表の肩書きを持つ22歳の若者は「家族と話し合い、自分のキャリアにとってプラスになると思った」と移籍の理由を語った。

 この時はまさか、日本で5年間以上もプレーするとは思っていなかったのだろう。

 「少しでも長く、ここでプレーをしたい」

 異国の地でのチャレンジに向けて、彼は抱負を口にしていた。

 2019年の柏は、オルンガ、クリスティアーノ、江坂任という強力なアタッカーが前線のユニットを形成していたため、サヴィオはベンチスタートが多く、主に試合途中から流れを変えるスーパーサブの役目を担っていた。今考えれば、なんと贅沢な起用法だろうか。

 それでもデビュー2戦目で早くも移籍後初ゴールを奪い、ハーフシーズンという限られた出場時間の中でも7得点を記録した。翌2020年の大活躍を期待させるには十分なパフォーマンスだった。

2019シーズンのJ2第25節、岡山戦で生まれたサヴィオの柏加入後初ゴール

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Profile

鈴木 潤

2002年のフリーライター転身後、03年から柏レイソルと国内育成年代の取材を開始。サッカー専門誌を中心に寄稿する傍ら、現在は柏レイソルのオフィシャル刊行物の執筆も手がける。14年には自身の責任編集によるウェブマガジン『柏フットボールジャーナル』を立ち上げ、日々の取材で得た情報を発信中。酒井宏樹選手の著書『リセットする力』(KADOKAWA)編集協力。

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