REGULAR

J1首位を争う町田からJ2の大分へ。「覚悟の移籍」の背景、髙橋大悟の強い信念

2024.09.03

トリニータ流離譚 第16回

片野坂知宏監督の下でJ3からJ2、そしてJ1へと昇格し、そこで課題を突きつけられ、下平隆宏監督とともにJ2で奮闘、そして再び片野坂監督が帰還する――漂泊しながら試練を克服して成長していく大分トリニータのリアルな姿を、ひぐらしひなつが綴る。第16回はJ1で首位を争う町田からJ2の大分に覚悟を持って移籍してきた髙橋大悟の強い信念を伝えたい。  

「夏に来た選手は、結果を出さなくちゃいけない」

 9月1日、J2第29節のジェフユナイテッド千葉戦に0-2で敗れた後、不甲斐ない一戦を演じたチームはスタンドからの激しい怒号や野次を浴びることになった。

 俯いてそれを聞く者、顔を上げて受け止める者、言葉を発して応えようとする者。選手たちの振る舞いもそれぞれだ。厳しい叱咤激励に混じり、中には心ない罵声も飛ぶ。ひとしきりそれを受け止めてからゴール裏を後にして歩き出そうとした時、サポーターからの声に、髙橋大悟が強く反応する一幕があった。

 その場にいたクラブスタッフの証言によると、今夏の移籍期間に加入した髙橋と吉田真那斗に対し、名指しで野次が飛んできたのだという。それが引き金になったのか、髙橋は思わず熱くなり、吉田とともにスタンドへと言葉を発した。

 「いやー、ちょっとだらしないところを見せてしまいましたけど」

 着替えを済ませてミックスゾーンへとやってきた髙橋は、少し苦笑いしてからその時のことを話してくれた。

 「僕は覚悟を持ってここに来た。そして、こんなに若い選手がたくさんいて、大分で長い間プレーしている先輩たちがいて、そのみんなが自分たちのことだけを考えているなんて、僕は全くそういうふうには感じない。若い選手たちもみんな大分が好きで、先輩たちも大分のためにやっているということが、逆に夏から来たからこそ、すごくわかる感じなので。それを理解してもらえていないことに対して、ちょっと腹が立ってしまいました」

 髙橋がどれだけの思いで大分トリニータへの期限付き移籍を決断したのかは、チームに合流した当初から何度も繰り返された、髙橋自身の言葉から十分に伝えられている。

 「夏に来た選手は、結果を出さなくちゃいけない」

千葉戦で空中戦に挑む髙橋(Photo: OITA F.C.)

J1首位町田からの「覚悟を持った移籍」

 移籍元のFC町田ゼルビアは現在、J1で優勝争いの真っ最中だ。そのゼルビアを昨季J2優勝へと導きJ1へと押し上げた戦力の中心に、髙橋はいた。チームの夏場の躍進を支えたのは1トップ・藤尾翔太とトップ下・髙橋のユニットが見せたハイプレスとボール保持だったと言っても過言ではない。

 髙橋は神村学園高校を卒業した2018年にJ1・清水エスパルスでプロキャリアをスタートさせたが、出場機会に恵まれず2年目の夏にJ3・ギラヴァンツ北九州へと期限付き移籍。加入後は全試合に先発し、チームをJ3優勝・J2昇格へと導いた後、もう1年ギラヴァンツでプレーしてからエスパルスに戻り、翌シーズンにゼルビアへと完全移籍した。エスパルスでは十分に果たせなかったJ1チャレンジを、今季はゼルビアの昇格という形で自ら勝ち取ったはずだった。

 だが、髙橋が感じていた手応えとは裏腹に、クラブはワンランク上のカテゴリーでの戦いに備え、非情な舵を切る。昨季、髙橋がつけていた背番号10は今季は新加入の韓国代表ナ・サンホへと渡された。かつて青森山田高校を強豪へと育て上げた黒田剛監督ならではのマネジメントなのか、選手はまるで大所帯のサッカー部のようにA・B・Cチームに振り分けられ、序列が明確化する。両ゴール前の強度をより重視する方向に徹底された戦術の下、ボールは頭上を行き交うことが多くなり、髙橋のストロングポイントが輝く機会は激減した。J1で勝ち続けるということは、かくまで厳しいことなのかとあらためて思う。

 そんな折に、トリニータが髙橋に白羽の矢を立てた。3シーズンぶりに2度目の指揮を執る片野坂知宏監督が新たなスタイルの構築を目指したものの、立て続けに負傷離脱者を出してチームのベースをなかなか築くことができず、内容も結果も伴わないままに苦しんでいた夏のことだ。アグレッシブなハイプレスから始まり素早いトランジションで攻守シームレスに戦う、そんなふうに指揮官の描いた青写真は、選手層が不安定さを増すにつれてミドルゾーンでブロックを構える方針へと転じ、結果の出ない試合が続くとそれがネガティブな方に転がって、消極的なプレーでボールを前進させることができなくなっていた。

 その閉塞感を打ち破る契機になってくれるに違いない。7月23日に発表された髙橋の期限付き移籍加入は、そんな期待を抱かせてくれた。

右ウイングではなく「真ん中」が移籍の決め手

……

残り:2,606文字/全文:4,801文字 この記事の続きは
footballista MEMBERSHIP
に会員登録すると
お読みいただけます

Profile

ひぐらしひなつ

大分県中津市生まれの大分を拠点とするサッカーライター。大分トリニータ公式コンテンツ「トリテン」などに執筆、エルゴラッソ大分担当。著書『大分から世界へ 大分トリニータユースの挑戦』『サッカーで一番大切な「あたりまえ」のこと』『監督の異常な愛情-または私は如何にしてこの稼業を・愛する・ようになったか』『救世主監督 片野坂知宏』『カタノサッカー・クロニクル』。最新刊は2023年3月『サッカー監督の決断と采配-傷だらけの名将たち-』。 note:https://note.com/windegg

RANKING