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3戦連続2発で覚醒!川崎Fを「数字で引っ張っていく」山田新が抱き始めた新エースの自負

2024.08.26

フロンターレ最前線#7

「どんな形でもタイトルを獲ることで、その時の空気感を選手に味わってほしい。次の世代にも伝えていってほしいと思っています」――過渡期を迎えながらも鬼木達監督の下で粘り強く戦い、再び優勝争いの常連を目指す川崎フロンターレ。その“最前線”に立つ青と黒の戦士たちの物語を、2009年から取材する番記者のいしかわごう氏が紡いでいく。

第7回では、最前線から川崎Fを復調へと牽引している山田新をピックアップ。各ゴールの裏にある物語を振り返りながら、3戦連続2発で覚醒を迎えた24歳が抱く新エースとしての自負に迫る。

序盤戦の3点はすべて交代直後。「心の準備」で信頼も奪取

 ストライカーには自分の「格」を上げる仕事をする時期がある。山田新にとって、2024年の夏はまさにそんなタイミングだったと言える。

 川崎フロンターレは中断期間前のJ1リーグ第24節・柏レイソル戦(○3-2)の打ち合いを制すると、ヴィッセル神戸、FC東京を下して3連勝を飾った。その原動力となっていたのが、他ならぬ山田である。

 Jリーグ史上日本人3人目となる3試合連続2得点を記録。今季のリーグ戦得点数は11得点と、早くも自身初の二桁に達した。同じCFのポジションにエリソン、バフェティンビ・ゴミス、そして小林悠といった実績十分なストライカーたちがひしめくチーム内競争がある中、プロ2年目、それもアカデミー育ちの生え抜きである山田の飛躍は、ちょっとした驚きとなっている。

 ただ振り返ってみると、ブレイクの兆しはシーズン当初からあった。勝利に直結こそしなかったが、インパクトの強いゴールが目立っていたからだ。

 例えば今季初得点は、第2節ジュビロ磐田戦(●4-5)のPK弾である。自分が倒されて得た絶好機だったこともあり、起き上がった山田はボールを強く抱えたまま離さなかった。そしてチームのキッカーであるエリソンと交渉した末、自ら蹴ってキックも成功。桐蔭横浜大学から正式加入したプロ1年目の去年とは違う意思を発してピッチに立っている男の姿がそこにはあり、そんな思いで呼び込んだファーストゴールだった。

 特筆すべきは、シーズン序盤に記録した3ゴールがどれも途中交代で入った直後に決めたものだったこと。磐田戦のPKも投入から1分を経たずに奪取したものであり、第5節のFC東京戦(○3-0)も約1分前に同時に出場した山内日向汰のパスをファーストタッチで押し込み、相手を突き放すチーム2点目を挙げた。第10節のサンフレッチェ広島戦(2-2)でも、アウェイのピッチを踏んで約30秒後のファーストプレーで一時勝ち越し弾を決めている。

 CFは10回の決定機がめぐってきて、そのうち9回外しても残りの1回を決めたらヒーローになれるポジションだ。だから、いくらシュートを外しても気にしないメンタルも必要となるが、今季の山田はファーストチャンスを逃さずに決め切る感覚を磨き上げてきたと言える。

 もちろん、限られた出場時間でめぐってきたチャンスを最初に仕留める作業は、決して簡単ではないだろう。例えば広島戦の後、途中投入時に心がけていることを本人に尋ねてみると、こう明かしてくれた。……

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Profile

いしかわごう

北海道出身。大学卒業後、スカパー!の番組スタッフを経て、サッカー専門新聞『EL GOLAZO』の担当記者として活動。現在はフリーランスとして川崎フロンターレを取材し、専門誌を中心に寄稿。著書に『将棋でサッカーが面白くなる本』(朝日新聞出版)、『川崎フロンターレあるある』(TOブックス)など。将棋はアマ三段(日本将棋連盟三段免状所有)。Twitterアカウント:@ishikawago

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