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ヒュッターの戦術とモナコの特殊性の掛け算。南野拓実が王様になれた理由を探る

2024.08.21

新・戦術リストランテ VOL.29

footballista創刊時から続く名物連載がWEBへ移籍。マエストロ・西部謙司が、国内外の注目チームの戦術的な隠し味、ビッグマッチの駆け引きを味わい尽くす試合解説をわかりやすくお届け!

第29回では、加入2年目の昨季に30試合9ゴール6アシストで初年度の雪辱を晴らし、新シーズンのリーグ1開幕戦でも決勝点を挙げた南野拓実に注目。モナコの王様となれた理由を戦術と歴史から探る。

勝手知るヒュッター監督との再会

 リーグ1開幕戦でサンテティエンヌをホームに迎えたASモナコが1-0で勝利しています。決勝点は南野拓実。その前にもネットを揺らしましたが、こちらはオフサイドの判定でした。

 3年目の南野にとってはおそらくプレーしやすい環境だと思います。昨夏からベンチに座るアディ・ヒュッター監督も南野のレッドブル・ザルツブルク時代(2015-19)に指揮を執っていた人で、戦術もその時とほとんど変わらないからです。

 フォーメーションは[4-4-2]、南野のポジションは右のサイドハーフ(SH)です。ただ、ウイング的な仕事は求められておらず、反対サイドのベン・ゼキルもそれは同じ。SHは中へ入って2トップと合わせて4人が真ん中にいます。中央に人数をかけるのはヒュッター監督の戦術の特徴ですね。[4-4-2]というより[4-2-2-2]という感じでしょうか。サイドアタックはSBの担当になっています。

コーチングエリアから戦況を見守るヒュッター監督

 ヒュッター監督のザルツブルク時代(14-15)は中盤にマルセル・ザビッツァー、コンラート・ライマーもいましたね。オーストリアでリーグ&カップのダブルを成し遂げました。しかし、次のシーズンはヤングボーイズへ移り、ここでもリーグ優勝。ヤングボーイズには久保裕也がいました。さらにフランクルト時代は長谷部誠、鎌田大地も指導。日本人選手と縁のある監督でもあります。

 モナコでは2トップのエンボロ、バログンと南野、ベン・ゼキルの4人による中央突破がメインです。真ん中にアタッカーを集めることで、相手のCB、SB、ボランチがどう対応するかの選択を突きつけ、それによってフリーになる選手、空いたスペースを狙っていこうという意図がうかがえます。

 オフサイドになった南野のゴールは、ベン・ゼキルからのパスをバログンが裏へ捌き、その間にタイミングよく裏抜けした南野が受けてのものでした。逆に南野からバログンへのスルーパスでの決定機もあり、このあたりは攻撃の狙いがよく表れていたと思います。

 28分のゴールは右SBバンデルソンからのロングパス一発から抜け出し、美しいループで決めています。裏抜けとラストパスの上手さという南野の特徴を発揮するには、うってつけのシステムといえるでしょう。

 後半はサンテティエンヌに攻め込まれる場面もあり課題はありますが、チームにとっても南野にとっても良いスタートが切れたのではないでしょうか。

国外クラブだけじゃない特殊性

 ASモナコはリーグ1の名門です。リーグ優勝8回、クープ・ドゥ・フランス優勝5回。カップウィナーズカップ準優勝、UEFAカップ準優勝など、欧州の舞台でも実績を残してきました。……

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Profile

西部 謙司

1962年9月27日、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、会社員を経て、学研『ストライカー』の編集部勤務。95~98年にフランスのパリに住み、欧州サッカーを取材。02年にフリーランスとなる。『戦術リストランテV サッカーの解釈を変える最先端の戦術用語』(小社刊)が発売中。

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