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体のどこでもコントロール可能、ジダンのようなファーストタッチを育むための「制約」とは?

2024.08.21

トレーニングメニューで学ぶエコロジカル・アプローチ実践編#9

23年3月の『エコロジカル・アプローチ』出版から約1年、著者の植田文也氏は同年に盟友である古賀康彦氏の下で再スタートを切った岡山県の街クラブ、FCガレオ玉島でエコロジカル・アプローチの実践を続けている。理論から実践へ――。日本サッカー界にこの考え方をさらに広めていくために、同クラブの制約デザイナーコーチである植田氏と、トレーニングメニューを考案しグラウンド上でそれを実践する古賀氏とのリアルタイムでの試行錯誤を共有したい。

第9回は、前回に引き続き、オーストラリアのゴールドコースト・ナイツFCでコーチを務める工藤仙氏に、EDM(エコロジカル・ダイナミクス・アプローチ)やディファレンシャル・ラーニングを取り入れた独自のトレーニングを紹介してもらった。ストリートサッカーで磨かれたジダンのようなファーストタッチを育むための「制約」について考えてみたい。

ライフキネティクスで学んだマルチタスクの利点

植田「第9回は、前回に引き続きオーストラリアのゴールドコースト・ナイツFCでコーチを務めながら、自身が運営するT’s Football Academyでも指導をされている工藤さんにゲストとして登場してもらいましょう。

 前回はタスク分解の中でも、ボールマスタリーを中心的に取り上げました。そして、どうしたらもっとバリアビリティ豊かな動作にチャレンジさせられるか、試合本番への転移可能性を高められるか、というような観点で具体的なメニューをいくつか例示していただきました」

工藤「前回に引き続き、よろしくお願いいたします。前回は退屈な反復に陥りがちなボールマスタリーにノイズを加えるようなトレーニングを紹介しました。おさらいの意味も込めて別の映像をご紹介すると、このようなトレーニングが一例です。

ボールマスタリー+身体制約(ボールキャッチ)

 通常のボールマスタリーに加えて、手でのボールキャッチを身体制約の意味合いで入れています。これによってノイズを与えて、不確実なことが起こる試合でも活用できるようなボールマスタリースキルの習得を目指しています。

 私はライフキネティクスも学んでいるのですが、このように手と足で別のタスクを行わせることが多いです。こうしたマルチタスクにより脳の回路が増えるというようなことが利点です。同時に、私はEDM(エコロジカル・ダイナミクス・アプローチ)やディファレンシャル・ラーニングを学び出したのですが、これはバリアビリティを引き出す身体制約としても機能していると感じていて、ライフキネティクスで学んだものをこうしたタスク分解に付け足す身体制約としても活用しています」

空中のボールをコントロールするスキル開発とは?

植田「今回はこうしたボールマスタリー以外のタスク分解における具体的なメニューを紹介してほしいんですが、どんなものがありますか?」

工藤「例えば、コントロールからパスといったタスクだと、このようなものがあります。

レシービング・オクロック(コントロール&ドライブ+コントロールオリエンタードのための制約操作)
……

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Profile

植田 文也/古賀 康彦

【植田文也】1985年生まれ。札幌市出身。サッカーコーチ/ガレオ玉島アドバイザー/パーソナルトレーナー。証券会社勤務時代にインストラクターにツメられ過ぎてコーチングに興味を持つ。ポルトガル留学中にエコロジカル・ダイナミクス・アプローチ、制約主導アプローチ、ディファレンシャル・ラーニングなどのスキル習得理論に出会い、帰国後は日本に広めるための活動を展開中。footballistaにて『トレーニングメニューで学ぶエコロジカル・アプローチ実践編』を連載中。著書に『エコロジカル・アプローチ』(ソル・メディア)がある。スポーツ科学博士(早稲田大学)。【古賀康彦】1986年、兵庫県西宮市生まれ。先天性心疾患のためプレーヤーができず、16歳で指導者の道へ。早稲田大学大学院スポーツ科学研究科でコーチングの研究を行う。都立高校での指導やバルセロナ、シドニーへの指導者留学を経て、FC今治に入団。その後、東京ヴェルディ、ヴィッセル神戸、鹿児島ユナイテッドなど複数のJリーグクラブでアカデミーコーチやIDP担当を務め、現在は倉敷市玉島にあるFCガレオ玉島で「エコロジカル・アプローチ」を主軸に指導している。@koga_yasuhiko(古賀康彦)、@Galeo_Tamashima(FCガレオ玉島)。

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