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ブルーノの「偽9番」はトッティに近い。今季のマンチェスター・ユナイテッドは面白い…かも?

2024.08.14

新・戦術リストランテ VOL.28

footballista創刊時から続く名物連載がWEBへ移籍。マエストロ・西部謙司が、国内外の注目チームの戦術的な隠し味、ビッグマッチの駆け引きを味わい尽くす試合解説をわかりやすくお届け!

第28回は、コミュニティシールドでのマンチェスター・ダービーで見られたブルーノ・フェルナンデスの「偽9番」システムを考察。ユナイテッドのカウンターの破壊力は、すでにシティを脅かすレベル。残る課題も含めて分析してみたい。

触るたびに上手いブルーノ・フェルナンデス

 コミュニティシールドが行われました。昨季のプレミアリーグのチャンピオンとFAカップのウィナーが対戦する恒例の試合です。今回はマンチェスター・シティ対マンチェスター・ユナイテッドという同じ街のクラブ同士。

 シティとユナイテッドは因縁浅からぬものがあります。ユナイテッドが初タイトルを獲った時の主力メンバーが元シティの選手たちでした。オールドトラッフォードが爆撃されて使用できない時にはシティのスタジアムに間借りしていた時期も。ともに欧州タイトルを獲り、ともに降格したこともあれば、ユナイテッド全盛期にシティが下部リーグであえぐ明暗分かれた時期もありました。

 現在はシティが優位です。試合展開も予想通りシティが保持して押し込む流れ。しかし、ユナイテッドもカウンターからチャンスを作っていました。決定機ではむしろ上回っていましたね。82分にガルナチョが決めてユナイテッド先制。しかし89分にベルナルド・シルバのヘッドでシティが追いつきます。PK戦でシティ勝利となりましたが、ユナイテッドはかなり健闘していたと思います。

 もう少しボールを保持できるといいんですけどね。リサンドロ・マルティネスを偽SBにしてのビルドアップだったのですが、マグワイアとエバンスの両CBがいまいち気が利かない感じで、可変ビルドアップは絵に描いた餅に終わっています。

 ただ、カウンターは強力でした。ディアロが躍動感あふれる突破を見せ、交代出場のガルナチョも気を吐いています。そして何といってもブルーノ・フェルナンデス。

 もうボールに触れるたびに上手い。オフサイドで幻となった左ペナ角付近からファーサイドのネットへねじ込むシュートがあり、先制点もアシストしています。

シティ戦でのブルーノのプレー集。54分には抜け出しから切り返して追走をかわすと、弧を描くコントロールショットでゴールネットを揺らしたが、オフサイドで取り消しに(0:17~)

 この試合のユナイテッドはCFがいませんでした。いちおうブルーノが「9番」なのですが、いわゆる「偽9番」です。これがけっこうハマっていました。

 ファルソ・ヌエベ(偽9番)は古くからある戦法です。幾多の名手もいます。近年ではメッシが例として浮かんできますが、「偽9番」の系譜としてはけっこう特例でして、ブルーノはメッシ型ではありません。ASローマでのトッティに近い。言ってみれば正統派の「偽9番」。正統で偽というのは言葉的には微妙ですが。

正統派「偽9番」ヒデクチ型とは?

……

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Profile

西部 謙司

1962年9月27日、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、会社員を経て、学研『ストライカー』の編集部勤務。95~98年にフランスのパリに住み、欧州サッカーを取材。02年にフリーランスとなる。『戦術リストランテV サッカーの解釈を変える最先端の戦術用語』(小社刊)が発売中。

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