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「弱者のサッカー」を極める。カタールとパリで確立された日本スタイルの先に何を見る?

2024.08.07

新・戦術リストランテ VOL.27

footballista創刊時から続く名物連載がWEBへ移籍。マエストロ・西部謙司が、国内外の注目チームの戦術的な隠し味、ビッグマッチの駆け引きを味わい尽くす試合解説をわかりやすくお届け!

第27回は、「有意義に五輪を使えた」というU-23日本代表のパリ五輪での戦いぶりを総括する。A代表と共通する[4-4-2]守備ブロックと[4-3-3]の両サイド打開を組み合わせた完成度の高い「弱者のサッカー」は、世界大会でも安定したパフォーマンスを発揮した。しかし、W杯優勝を狙うならその先の絵を描く必要があるという。その心は?

五輪の使い方として有意義だった

 U-23日本代表については、U-23アジアカップ(パリ五輪予選)の時に取り上げていますが、パリ五輪があったので再度の登場でございます。

 とはいえ、チームの特徴は予選時と全く変わらないので、それについて深掘りしようとは思いません。メンバーが均質的で、それゆえにターンオーバーによる総力戦ができるのが、ざっくり言うと最大の長所でした。

 パリ五輪にはオーバーエイジ3人と、予選時に招集できなかった久保建英などが招集される可能性があり、その場合は均質ゆえのプレーの一体感が損なわれるかもしれないと考えていました。そこを短期間でどうまとめるかが課題だと。ところが、三戸舜介と斉藤光毅が加わったもののOA枠は使わず。ほぼ予選時の編成で臨み、特徴も変わらないままパリ五輪を戦っています。

 五輪は日程も厳しく、その点で日本のターンオーバーは効果的だったと思います。準々決勝でスペインと当たったのはやや不運でしたが、0-3という完敗スコアほど内容の差はなく、健闘したと言っていいのではないでしょうか。

0-1のビハインドで迎えた40分に細谷真大の反転シュートで同点に追いついたかと思われたが、VARでオフサイドの判定が下され取り消しとなるなど、決定機を作りながらも1点が遠かったU-23日本代表

 そもそも五輪男子サッカーは中途半端な大会です。

 U-23という年齢制限がありながら、OA枠が認められている。これはサッカー的に意味があるわけではなく、IOCとFIFAの綱引きの結果としての妥協の産物です。U-23というカテゴリーそのものも、育成年代かというとかなり微妙ですしね。欧州のクラブに所属している選手の招集ハードルが高いことを考えると、実力は一般的にA代表の3軍か4軍レベルでしょうから、その世界大会に意義を見出すのは難しい。

 たまたま23歳以下でA代表に入っている選手が何人もいて、さらにA代表のエース級をOAとして投入した場合は、2年後のW杯を予感させるチームに仕上がります。メッシとリケルメがいた2008年北京五輪優勝のアルゼンチンはまさにそうだったのですが、そのまま2010年W杯でプレーしたわけでもありません。

 今回、日本はU-23の若手に経験を積ませることが目的でした。最初からそういう意図だったわけではないでしょうが、結果的にそうなったわけです。五輪は各国の思惑で利用すれば良い大会だと個人的には思っていて、純粋なU-23代表で臨んだ日本はA代表のカーボンコピーみたいな戦術の下、4試合の経験を積めました。その点では、有意義に五輪を使えたのではないでしょうか。

グループステージ初戦のパラグアイ戦、5-0大勝の口火を切る2ゴールを挙げた三戸(中央)。その2点目のお膳立てを含む2アシストを記録したのが斉藤(左)で、2023-24シーズンはロンメルでもチームメイトだった

[4-4-2]ブロック+[4-3-3]サイド打開

 大岩剛監督が率いたU-23日本代表は、森保一監督の日本代表とそっくりでした。……

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Profile

西部 謙司

1962年9月27日、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、会社員を経て、学研『ストライカー』の編集部勤務。95~98年にフランスのパリに住み、欧州サッカーを取材。02年にフリーランスとなる。『戦術リストランテV サッカーの解釈を変える最先端の戦術用語』(小社刊)が発売中。

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