REGULAR

バイエルン監督にも推された43歳、デミチェリスはなぜ最愛のリーベルを追われたのか

2024.08.04

EL GRITO SAGRADO ~聖なる叫び~ #7

マラドーナに憧れ、ブエノスアイレスに住んで35年。現地でしか知り得ない情報を発信し続けてきたChizuru de Garciaが、ここでは極私的な視点で今伝えたい話題を深掘り。アルゼンチン、ウルグアイをはじめ南米サッカーの原始的な魅力、情熱の根源に迫る。

footballista誌から続くWEB月刊連載の第7回(通算166回)は、未来の名将候補として期待されるマルティン・デミチェリスについて。43歳の元アルゼンチン代表DFは、バイエルンのU-19リザーブチームの指揮を経て就任した母国の古巣リーベルプレートで、18カ月の間に国内3タイトルを獲得しながら、シーズン途中に突然の“別れ”が訪れた。

マルティーノやペジェグリーニも認める才、“シャビ・アロンソ以上”の“リーベル・ミュンヘン”

 リーベルプレートでの最後の采配の後、会見場に姿を現したマルティン・デミチェリス監督はひな壇に座るなりこう語った。

  「2015年のコパ・アメリカに参加していた時、タタ・マルティーノ(※当時のアルゼンチン代表監督)が私に『君は素晴らしい指導者になるだろう。それに備えて選手生活最後の時期を存分に活かしなさい』と言った。マヌエル・ペジェグリーニ(※現役時代にリーベル、マラガ、マンチェスター・シティで指導を受けた恩師)も同じことを言ってくれたよ。それから6年間、私は研究、発見、討論を積み重ねながら本気で(指導者になるための)準備をしたけれど、昨日、選手たちの前で直面しなければならなかったような“別れ”の用意はまったくできていなかった」

 その後、終始明るい笑顔を見せながらも時折唇を噛み締め、デミチェリスは約9分間にわたってモノローグを続けた。1年8カ月前に自分を監督として迎え入れてくれたリーベルへの感謝の気持ちや、昔から変わらないクラブへの想いなどについて落ち着いた口調で語りつつも、最愛の妻と子供たちに言及するたびに瞳が涙で光る。

 「妻と約束したんだ。今日は笑顔で、幸せでいることを」

 その言葉と微笑みの裏にやり場のない悔恨の念が秘められていたことは、会見を見ていた誰もがわかっていた。いくらリーベルが公式声明で「双方の合意のもと」と決まり文句を添えたところで、シーズン途中での退任が“事実上の解雇”であったことは隠せない。なにせ彼はその前日まで、来年12月に契約満了となる任務を完遂することしか考えていなかったのだ。

……

残り:2,088文字/全文:3,264文字 この記事の続きは
footballista MEMBERSHIP
に会員登録すると
お読みいただけます

Profile

Chizuru de Garcia

1989年からブエノスアイレスに在住。1968年10月31日生まれ。清泉女子大学英語短期課程卒。幼少期から洋画・洋楽を愛し、78年ワールドカップでサッカーに目覚める。大学在学中から南米サッカー関連の情報を寄稿し始めて現在に至る。家族はウルグアイ人の夫と2人の娘。

RANKING