イネオスが叩き直す、新時代のマンチェスター・ユナイテッドはどこへ向かうのか
Good Times Bad Times 〜フットボール春秋〜 #7
プレミアリーグから下部の下部まで、老いも若きも、人間も犬もひっくるめて。フットボールが身近な「母国」イングランドらしい風景を、在住も25年を超えた西ロンドンから山中忍が綴る。
footballista誌から続くWEB月刊連載の第7回(通算241回)は、サポーターならずとも気になるテン・ハフ体制3年目の「新たな船出」について。
「年内にはサウスゲイトかトゥヘルの登場かな」「プレミアもELも無理っしょ」
去る7月20日、他界してしまった隣人を偲ぶ席でのこと。日本でいう忌日法要のようなものだが、こちらでは「故人の人生を祝う会」として人々が集まる。この日は、西ロンドンの一角にある近所のパブで延べ6時間。飲食も交えての歓談では、故人との思い出以外にも話が及んだ。
サッカーも、その1つ。EURO2024はイングランドの戴冠なく前週に幕を閉じ、翌週に始まるパリ五輪のサッカーには、基本不参加の男子チームのみならず、予選で敗れた英国女子代表も不在。必然的に、国内での来季が話題となる。出席者には在ロンドン・クラブ以外のサポーターもいたが、格段に“元気のなさ”が目立ったのが、マンチェスター・ユナイテッドのファンだった。
1人は、同月上旬に決まったエリック・テン・ハフ監督の続投に疑問の様子。「年内には、(ガレス・)サウスゲイトか(トーマス・)トゥヘルの登場かな」と、3年間で3度目の監督交代を予想していた。別の男性が、「プレミアリーグは問題外として、ヨーロッパリーグでも優勝できるかどうか」と言えば、中学生と思しき彼の息子も、「どっちも無理っしょ」と苦笑いしていた。
昨季のユナイテッドは、プレミア(1992年〜)ではクラブ史上最低の8位に終わった。CLもグループ最下位での早期敗退。幻滅のシーズンが尾を引いているようだ。復活を期待して裏切られる不安から、ついつい悲観的になるファン心理も働いているのだろう。
個人的に贔屓(ひいき)のチェルシーは、一昨季を無冠のプレミア12位で終えた。それに比べれば、FAカップ優勝で締めくくったユナイテッドの昨季は「マシでしょう?」と言うと、「ウチらは強豪としての歴史が違う」との反応が返ってきた。10年以上リーグ優勝から遠ざかる事態など、「マンチェスター・シティのリーグ4連覇と同じぐらいあり得ないこと」なのだと。
……
Profile
山中 忍
1966年生まれ。青山学院大学卒。90年代からの西ロンドンが人生で最も長い定住の地。地元クラブのチェルシーをはじめ、イングランドのサッカー界を舞台に執筆・翻訳・通訳に勤しむ。著書に『勝ち続ける男 モウリーニョ』、訳書に『夢と失望のスリー・ライオンズ』『ペップ・シティ』『バルサ・コンプレックス』など。英国「スポーツ記者協会」及び「フットボールライター協会」会員。