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リバプールに抜擢された33歳の異色コーチが取り組むGKトレーニング革命

2024.07.28

TACTICAL FRONTIER~進化型サッカー評論~#6

『ポジショナルプレーのすべて』の著者で、SNSでの独自ネットワークや英語文献を読み解くスキルでアカデミック化した欧州フットボールの進化を伝えてきた結城康平氏の雑誌連載が、WEBの月刊連載としてリニューアル。国籍・プロアマ問わず最先端の理論が共有されるボーダーレス化の先に待つ“戦術革命”にフォーカスし、複雑化した現代フットボールの新しい楽しみ方を提案する。

第6回は、リバプールに抜擢された33歳のGKコーチ、ファビアン・オッテの学術研究に裏打ちされた新しいGKトレーニングを解説。ボルシアMG時代にスイス代表のヤン・ゾマーにストロボ・ゴーグルをつけたトレーニングを実施したことで話題になっていたが、ユニークな経歴を持つ若きドイツ人コーチはリバプールで何を起こすのか?

 過酷な競争やケガをきっかけにプロとしてのキャリアに限界を感じ、若くして指導者の道を歩むことを決めた多くの俊英がいる。プロとしてのキャリアを長く続けることは指導者としてのキャリアの成功には直結しない――多くの監督やコーチがそれを証明してきたが、GKというポジションはいまだに特殊だ。

 選手としてのキャリアが比較的長く、より「職人」のような技術が求められるポジションであり、若くして指導者になるという選択肢は珍しい。先日の連載でも紹介したアイルランドのレネ・ギルマーティンは選手兼コーチという立場で若い頃からGK指導に携わってきたが、それでも32歳からコーチングを学び始めた。ギルマーティンも期待の指導者だが、33歳でリバプールのGKコーチに抜擢されたファビアン・オッテの経歴は別格だ。

リバプール新指揮官アルネ・スロットの口からバックルームスタッフ入りが発表されたオッテ

ドイツからニュージーランド、そして米国へ

 ドイツ生まれのオッテはプロとしてのキャリアに若くして見切りをつけ、スポーツマネジメントを学ぶために渡米。アメリカのノースカロライナ大学で、アマチュアとしてサッカーを続ける。ドイツに戻って4部リーグでプレーした後、ニュージーランドの2部クラブに移籍。そこでは選手としてプレーしながら、オレ・フットボール・アカデミーという国内屈指のアカデミーでコーチを務めることになる。2014年、23歳で指導の世界に足を踏み入れた。

 その後はマーケティングをさらに学ぶためにニューカッスル大学に通いながら下部リーグでもプレーし、一度フットボールの現場を離れてナイキに就職する。しかし、アムステルダムでのオフィスワークは彼にとっては物足りなかったようで、やはりフットボールから離れることはできなかった。

 ニュージーランド時代の元チームメイト、ガレス・ターンブルから女子代表チームのGKコーチとして誘われ、最初はパートタイムの契約だったが実力を証明してフルタイムの契約を勝ち取ることになる。女子チームだけでなくユースチームも指導するようになっていく中で、彼はニュージーランドの「少ない才能を最大限に活かす」努力に感銘を受けた。

 その1つが、学術的な研究だ。……

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Profile

結城 康平

1990年生まれ、宮崎県出身。ライターとして複数の媒体に記事を寄稿しつつ、サッカー観戦を面白くするためのアイディアを練りながら日々を過ごしている。好きなバンドは、エジンバラ出身のBlue Rose Code。

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