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「過去一を目指す」大島僚太が思い出した感覚。川崎Fと復活を誓う背番号10の今

2024.07.25

フロンターレ最前線#6

「どんな形でもタイトルを獲ることで、その時の空気感を選手に味わってほしい。次の世代にも伝えていってほしいと思っています」――過渡期を迎えながらも鬼木達監督の下で粘り強く戦い、再び優勝争いの常連を目指す川崎フロンターレ。その“最前線”に立つ青と黒の戦士たちの物語を、2009年から取材する番記者のいしかわごう氏が紡いでいく。

第6回では、約1年ぶりの戦線復帰を果たした大島僚太について。J1第24節時点で14位に沈むチームの復活にも欠かせない、背番号10が思い出している感覚とは。

 この1カ月間を振り返ると、川崎フロンターレには2つの大きなトピックがあった。

 1つは、未勝利が続いたこと。6月16日の明治安田生命J1リーグ第18節のヴィッセル神戸戦で力負けすると、そこから1カ月間、リーグ戦の引き分けが5試合も続いたのである。

 サッカーは勝ち負けだけではなく、ドローという着地点がある競技だ。ただそれが5回も続くと、選手も気持ちの持ち方が難しいものである。5戦連続で痛み分けとなった第23節セレッソ大阪戦(1-1)後、ミックスゾーンで唇を噛んでいた小林悠の言葉は印象的だった。

 「勝てていないけど、内容がいいから選手も難しい。もうちょっとでつかめそうなところで勝てていない。ちゃんと負けていたら、そこに対して直していけるのに……」

 得点は奪えているものの、終盤の失点で勝ち点3が逃げていく。苦悩の1カ月を過ごしていたが、その後に第24節で柏レイソルとの死闘(3-2)を制し、7試合ぶりの白星を飾ることができた。ドロー続きのトンネルを抜け出し、チームは中断期間に入ることができている。

  もう1つのトピックといえば、やはりこの男になる。

 クラブの背番号10、大島僚太がピッチに戻ってきたのだ。

 6月26日に本拠Uvanceとどろきスタジアム by Fujitsuで開催された第20節の湘南ベルマーレ戦で大島が待望のベンチ入り。

 試合前のウォーミングアップでは彼のチャントが始まると、Gゾーンだけではなくメインスタンドも巻き込んだ手拍子が鳴り響いていく。次第にスタジアム全体が大きな拍手に包まれた。そして試合前のメンバー発表でその名をアナウンスされると、沸き起こったのは誰よりも大きな歓声と拍手。その盛り上がりは、誰もが大島の復帰を待ち焦がれていたことを示していた。

 そして80分、ついに待ちわびた瞬間が訪れる。山田新との交代で、大島がピッチに降り立った。去年の7月1日に行われた名古屋グランパス戦以来、実に354日ぶりとなる公式戦出場。会場はこの日一番とも言える声援に包まれていた。

 プレータイムは6分のアディショナルタイムも含めても、合計20分にも満たなかったが、記者席から見ていた自分は、目の前の大島よりも彼がそこに立つまでに流れてきた時間を眺めているような感覚になっていた。

「思い出す」に込められた意味

 この8日前。

 オフ明けの麻生グラウンドでのトレーニング後、全体練習に復帰していた大島僚太は囲み取材に応じていた。

 「プレーできているので、ぼちぼちだと思います」

 現在のコンディションを問われて、端的にそう話す。比較的、順調だったとは思うが、これまで幾度となく離脱を繰り返していた過去があるだけに、慎重になるのも無理はない。そこは本人も心得ているようだった。

 「毎日自分の体と疲労度を見ています。実質、1年は公式戦には出ていないので、(試合に)出るとなった時に対戦相手(と)の対戦をしっかり準備することしか考えていないです。記憶の部分を思い出しながら。それがスムーズに出せるようになれるのが大事だと思ってます。ただ走る、頑張るとか、そういうことで上がっていくのと同時に、それで失うものもあるので。試合に出る上では頭の整理を準備していきたいです」

Photo: Takahiro Fujii

 印象的だったのは、試合に向けた練習で取り組む意識として「思い出す」と語っていたことである。トレーニングの文脈ではあまり使わない表現だ。……

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Profile

いしかわごう

北海道出身。大学卒業後、スカパー!の番組スタッフを経て、サッカー専門新聞『EL GOLAZO』の担当記者として活動。現在はフリーランスとして川崎フロンターレを取材し、専門誌を中心に寄稿。著書に『将棋でサッカーが面白くなる本』(朝日新聞出版)、『川崎フロンターレあるある』(TOブックス)など。将棋はアマ三段(日本将棋連盟三段免状所有)。Twitterアカウント:@ishikawago

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