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「そもそも我々は競争する必要があるのか?」サッカークラブの競争戦略と存在意義の関係

2024.07.24

“新興サッカークラブ”の競争戦略
J30年目に新しいクラブをつくるリアル
#6

徳島ヴォルティスでプレーした元Jリーガーで、サッカー選手のステレオタイプを疑うユニークな記事発信で話題になった井筒陸也は現在、本人が「ベンチャーサッカークラブ」と語るクリアソン新宿で広報とブランディングを担当している。『敗北のスポーツ学』でもテーマにした「勝つこと」以外にも価値を見出す異質なメガネを持つ彼の目から見た“新興サッカークラブ”のリアルな舞台裏、そこから見える新しい時代を生き抜く競争戦略とは?

最終回は、連載タイトルにもなっている「新興サッカークラブの競争戦略」について、井筒陸也の現時点での考えをまとめてみることにする。

 「新興サッカークラブの競争戦略」などと銘打って始めた連載なので、最後は競争戦略そのものをテーマとしてみたいと思う。

 まず初めに考えたいのは、クリアソン新宿が比較的新しいサッカークラブとして東京都リーグ、関東リーグを勝ち抜き、あと一歩でJリーグというところまできた理由、競争優位性はなんだったのかという点である。

 もちろん、我々が突出した成功を収めているなんて言うつもりはない。例えば、FC今治や、いわきFCは、ここではそれぞれの細かい歴史に触れることはしないが、感覚的にクリアソン新宿の少し前に世間にその存在を知られたクラブで、すでに彼らはJリーグを戦っている。クリアソン新宿よりも成功していると言えるだろう。

 それでも、我々が比較的うまくいっている方だという前提のもとで、自分語りのようなものをしてみる。

Photo: Criacao Shinjuku

「理念」が初期の競争優位になった

 我々のサッカークラブは、3つのセクションに分かれている。これはクリアソン新宿に限ったことではなく、サッカークラブの構成要素としてある程度は共通だと思う。それは「Football部門」「toB部門」「toC部門」である。ざっくり言うと、Footballはサッカーチームを強くすることで、toB(to Business)は法人へのスポンサー営業、toC(to Customer)はファン作りである。

 まず、2005年にサッカーサークルを母体としてクリアソンが誕生したことは、クリアソンのFootball部門の誕生と同義である。ややこしい書き方になっているが、toBもtoCもクソもなく、単にサッカーチームを立ち上げだということである。

 初期から明確にあったのは「自分たちがどうありたいのか」という問いだった。当時は、今ほど社会への志向性というものはなかったかもしれないが、社会へ影響を及ぼし得る組織、人間であるという自覚は強くあったと思われる。

 一見、当たり前のよう思えるが、スポーツは結果至上主義に陥りがちで、社会との関係性の中にチームを置くことを避ける。その点、クリアソンのこの態度、我々は「理念」と呼んでいるが、それは少なくとも僕には新しく見えた。

 昨今、JFL未満の選手の実力もインフレしているが、その時代、都リーグで早稲田、慶應、中央、駒沢など、関東の体育会サッカー部からトップクラスの人材を獲得することができたこと、関東リーグ時代には、サガン鳥栖の小林祐三や、栃木SCの瀬川和樹をはじめ、J1やJ2で戦力になれる選手を獲得できたことは、紛れもなくこの理念によるもので、明確に競争優位性であった。

強みとなったto Bと、ロジカルではないto Cのバランス

……

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Profile

井筒 陸也

1994年2月10日生まれ。大阪府出身。関西学院大学で主将として2度の日本一を経験。卒業後は J2徳島ヴォルティスに加入。2018シーズンは選手会長を務め、キャリアハイのリーグ戦33試合に出場するが、25歳でJリーグを去る。現在は、新宿から世界一を目指すクリアソン新宿でプレーしつつ、同クラブのブランド戦略に携わる。現役Jリーガーが領域を越えるためのコミュニティ『ZISO』の発起人。

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