J1前半戦の戦術トレンド総括。「縦速勢=中堅サッカー」の支配が示す、真のビッグクラブ不在
新・戦術リストランテ VOL.25
footballista創刊時から続く名物連載がWEBへ移籍。マエストロ・西部謙司が、国内外の注目チームの戦術的な隠し味、ビッグマッチの駆け引きを味わい尽くす試合解説をわかりやすくお届け!
第25回は、2024シーズンのJ1前半戦の戦術トレンド総括。上位勢は首位を走る町田に代表される縦速勢が席巻し、リスクを冒すボール支配に軸足を置いたポジショナルプレー勢は軒並み不振。その意味するものとは?
レスターの優勝はなぜ、「ミラクル」なのか?
折り返し地点を過ぎたJリーグは短い中断期間に入りましたので、ここまでのJ1を総括してみたいと思います。総括というより雑感ですが。
第24節終了時点で首位は町田。5ポイント差で追うのがG大阪、鹿島。4位は昨季王者の神戸、続く広島までがトップ5です。
G大阪を除けば、いわゆる縦に速い攻撃とプレッシングの組み合わせを戦術の軸にしているチームが上位を占めています。縦速勢の優位という傾向はすでに昨季から出ていまして、代表格の神戸が優勝しています。
縦速サッカーはJリーグだけではありません。世界的な流行と言っていいでしょう。しかしながら、縦速チームが優勝した例は欧州ではあまりないんですね。
今や欧州でも1強化しているプレミアリーグの覇者はマンチェスター・シティです。縦速の攻め込みもありますが、看板はポゼッションの方でしょう。ラ・リーガは恒例のレアル・マドリー、バルセロナのワンツー。ブンデスリーガは無敗優勝レバークーゼン、やはり縦速メインというわけではない。セリエAはインテル、リーグ1はパリ・サンジェルマン。
欧州5大リーグの優勝チームはボール支配率が高く、速攻もできる、守備も強いという何しても強いチームが当然のごとくチャンピオンになっています。
ではJ1はどうかと言うと、そんなチームは現状いません。いわゆるビッグクラブがない。ちょっと前は横浜F・マリノスと川崎フロンターレが強豪然としたプレースタイルでタイトルを争っていたのですが、その力を維持できなかった。
欧州ビッグクラブは隔絶したお金持ちです。たまに調子の悪いシーズンがあっても、たちまち補強して地位を回復する。経済格差がはっきりしているので、各国いくつかあるビッグクラブの牙城を崩すのはとても難しい。例外として2015-16のプレミアリーグを制覇したレスターがありますけど、他国のビッグクラブ並の資金力はありました。昨季のレバークーゼンも準ビッグクラブです。
当時のレスターは「ミラクル」と呼ばれていました。ガチの縦速サッカーだったのですが、それで優勝するのはやはり奇跡的で、何十年に1回の出来事と捉えられていたわけです。
縦速は世界的な流れではありますが、それは中堅のためのサッカーという位置づけです。数は一握りのビッグクラブの比ではないですし。クラブではありませんがEURO2024でもスイス、オーストリア、スロベニアなどの健闘が光りました。しかしベスト4には入れていません。ベスト8もスイスとトルコだけでした。
ところがJ1は、いわば中堅サッカーが上位を占めている。圧倒的強豪、ビッグクラブが存在していないからです。
「エラー」に着目した戦い方
J1を席巻中の縦速勢。その特徴を整理してみます。……
Profile
西部 謙司
1962年9月27日、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、会社員を経て、学研『ストライカー』の編集部勤務。95~98年にフランスのパリに住み、欧州サッカーを取材。02年にフリーランスとなる。『戦術リストランテV サッカーの解釈を変える最先端の戦術用語』(小社刊)が発売中。