ビエルサが指摘する「サッカー衰退の論理」=大木武監督の下で選手が上手くなる理由
新・戦術リストランテ VOL.24
footballista創刊時から続く名物連載がWEBへ移籍。マエストロ・西部謙司が、国内外の注目チームの戦術的な隠し味、ビッグマッチの駆け引きを味わい尽くす試合解説をわかりやすくお届け!
第24回は、コパ・アメリカの記者会見で名将マルセロ・ビエルサが発した魂の叫び。その是非について考えてみたい。
なぜ、ビジネスがサッカーを衰退させるのか?
「私が確信を持って言えるのは、サッカーが衰退の最中にあるということだ」
発言の主はマルセロ・ビエルサ。現在はウルグアイ代表監督ですね。この人については今さら説明は不要でしょう。コパ・アメリカ2024の最中での発言です。サッカーを心底愛する名将の、魂の叫びのようなコメントに驚かれた人も多かったかもしれません。
ビエルサの論拠は、「ビジネスがサッカーを殺す」です。
では、なぜビジネスがサッカーを衰退させるのでしょうか。以下、ビエルサの主張です。
「サッカーはますます観客を抱え込んでいるが、どんどん魅力を失っている」
「この独自性にあふれている競技は、予測可能になりすぎるとその魅力を失ってしまうからだ」
「一見の価値ある選手が現れなくなり試合が楽しめるものでなくなってしまえば、人為的に視聴者数を増やしたところでいずれ壁にぶつかるだろう」
「サッカーは5分のハイライト以上に意味のあるもので、文化やアイデンティティの表現方法であったはずだ」
「本来のサッカーは大衆のもの。なぜか?貧しい人々には幸せを手にする手段、それを買うお金がなかったからだ。それでもサッカーはタダであり続けた。その起源は大衆にあったからだ。どれだけ貧乏な人々でも享受できる数少ない娯楽の1つだったが、もはやそうではなくなってしまった」
ちょっとわかりにくいと思いますので、整理してみましょう。
まず、サッカーファンは増え続けているけれども、それは「人為的」なものに過ぎないと看破します。90分間のゲームを見ず、5分程度のダイジェストばかり見る。そういう人は普通にいると思いますが、「サッカーは文化やアイデンティティの表現方法であったはず」なので、本来そんな見方はありえないとビエルサは言うわけです。その視聴者数は、いわば見せかけであり、金儲けのためにでっち上げられたものだと。それはいずれ頭打ちになるだろうから、サッカーファンは減り、つまりサッカーは衰退する。
また、「一見の価値ある選手が現れなくなり」、「試合が楽しめるものでなくなってしまえば」、「その魅力を失ってしまう」。これはビッグビジネスとなったサッカーは基本的に勝利至上主義だからです。脅迫的な行き過ぎた勝利至上主義によって、試合の質そのものが危うくなっている。人気だけでなくゲーム性そのものが衰退していくだろうという主張ですね。
5回プレーして3回成功or10回プレーして6回成功?
おそらくビエルサはサッカーのビジネス化を全否定しているわけではないと思います。本人も決して安くない報酬を得ているはずですし、多額の投資によって練習環境や医療体制などは格段に良くなっていて、選手はその恩恵を受けています。
一番大きな問題、私たちに関係があるのは、ゲームの質の低下でしょう。なぜ、ビジネス化がゲームの質を低下させてしまうのか。
ビエルサ監督率いるウルグアイが3位決定戦を戦っていたのと同じ日、J2のジェフユナイテッド千葉vsロアッソ熊本がありました。試合後、熊本の大木武監督に「なぜ、大木監督のチームでプレーした選手は軒並み上手くなるのか?」という質問をしました。大木さんのところへ行くと、皆上手くなる。私だけでなく、多くの人がそう思っているでしょうし、それはなぜなのか以前から聞いてみたかったのです。
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Profile
西部 謙司
1962年9月27日、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、会社員を経て、学研『ストライカー』の編集部勤務。95~98年にフランスのパリに住み、欧州サッカーを取材。02年にフリーランスとなる。『戦術リストランテV サッカーの解釈を変える最先端の戦術用語』(小社刊)が発売中。