「かっこよさ」を配信する作り手が集まる場所へ――鎌倉インテル「リブランディング」の目指す先
強いからかっこいいのか、かっこいいから強いのか
――サッカークラブ・ブランディング探求#06
鎌倉インターナショナルFCの監督とCBO(ブランディング責任者)を兼任し、2024シーズンからはテクニカル・ダイレクターおよびCBO を務める河内一馬は、2018年7月に“あるnote記事”がバズり、一躍サッカー界における「ブランディングの論客」という地位を確立した。競技側の人間でありながらブランディングを語る意味は、サッカー本大賞を受賞したデビュー作『競争闘争理論』の問題意識にも通じている。あれから5年が経ち、サッカークラブの現場でまさにそれを仕事にしている今、あらためて考えてみたい。強いからかっこいいのか、かっこいいから強いのか――その答えを探す旅。
最終回は、河内一馬がCBOとしてリブランディングに取り組んできた鎌倉インターナショナルFCの現在地と未来への展望について語ってもらおう。
連載の最後に、私が実際に「サッカークラブ・ブランディング」を行なっている鎌倉インターナショナルFCが抱える課題を露見させながら、それらをゼネラルな視点に変換させ、日本サッカーやスポーツ全体におけるブランディングのこれからについて、私の見解を書いていくことにしたい。
まず前提を整理すると、鎌倉インターナショナルFCというクラブは現在神奈川県1部リーグに所属する、いわゆるベンチャー企業のような歴史の浅いサッカークラブである。私が監督およびブランディング責任者として加入した段階では創設3年目、現在は7年目のシーズンを過ごしている。
私が2021年シーズンに加入すると同時に、ロゴ、ビジョン、ユニフォームなど、目にするもの耳にするものすべての「リブランディング」を行い、新たなスタートを切った。それから丸3シーズンを過ごしたということになる。
2021年からこれまでの仕事の評価をするのであれば、「リブランディング」という(単発の)行為自体は上手くいったと言えるが、現在はそのポテンシャルを活かしきれず、ある意味でプロセスは停滞してしまっている、というのが正直な自己評価である。一方ややこしい話ではあるが、ブランディングとは「時間そのもの」でもある。どんなに優れた仕事をしようと「時間」を早めることなどできず、ただただ継続した先にしか見えるものがないだとすると、サッカークラブにとって3年という短い月日は、まだ評価するには値しないのかもしれない。
この連載で書いてきた通り「サッカークラブ・ブランディング」の内実は複雑であり、その評価も安易に行われるべきではない。しかし「プロセスが停滞してしまっている」という自己評価や、「もっと上手くできたかもしれない」と思っているのは事実であるから、そこに課題を摘出することはできよう。
『CLUB WITHOUT BORDERS』という指針
コンセプトへの忠誠心という観点でいえば、私たちは『CLUB WITHOUT BORDERS』という明確なアイデンティティを持つことができている。直訳すると「国境をもたないクラブ」になるが、ここでいう「BORDERS(境界線)」とは、例えば性別、年齢、分野などの境界線を跨いでいくこと、そしてクラブの「限界」という名の境界線を超えていくことなど、あらゆる意味が込められた言葉だ。
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Profile
河内 一馬
1992年生まれ、東京都出身。18歳で選手としてのキャリアを終えたのち指導者の道へ。国内でのコーチ経験を経て、23歳の時にアジアとヨーロッパ約15カ国を回りサッカーを視察。その後25歳でアルゼンチンに渡り、現地の監督養成学校に3年間在学、CONMEBOL PRO(南米サッカー連盟最高位)ライセンスを取得。帰国後は鎌倉インターナショナルFCの監督に就任し、同クラブではブランディング責任者も務めている。その他、執筆やNPO法人 love.fútbol Japanで理事を務めるなど、サッカーを軸に多岐にわたる活動を行っている。著書に『競争闘争理論 サッカーは「競う」べきか「闘う」べきか』。鍼灸師国家資格保持。