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子離れできない「父性型」監督、ダリッチに振り回されGS敗退。EURO2024後も続くクロアチア代表の苦悩

2024.07.13

炎ゆるノゴメット#7

ディナモ・ザグレブが燃やす情熱の炎に火をつけられ、銀行を退職して2001年からクロアチアに移住。10年間のザグレブ生活で追った“ノゴメット”(クロアチア語で「サッカー」)の今に長束恭行氏が迫る。

第7回では、まさかのグループステージ敗退に終わったクロアチア代表のEURO2024を総括する。

ポルトガル撃破で楽観視も…本番では過去最低成績に

 「グループリーグ2分1敗、得失点差-3」。1991年の独立以降、クロアチアはW杯とEUROの本大会に12回出場し、決勝トーナメントに進めなかったケースは6回あるが、その中でもEURO2024は最悪の数字だ。逆境を跳ね返すたびに「最も困難な時こそ最高になれる」(Najbolja kad je najteže)というフレーズを唱え、2022年のカタールW杯では3位、2023年のネーションズリーグでは準優勝と初タイトルに一歩ずつ近づいていたバトレニ(クロアチア代表の愛称)。「レジリエンス」(精神的な回復力)こそがクロアチアの強みだったはずが、あのフレーズが今では空虚に響く。

EURO2024のクロアチア代表公式応援ソングのタイトルも『Najbolja kad je najteže』。ミュージックビデオにはバトレニの面々が出演している

 大会前のムードは極めて楽観的だった。準優勝に輝いたロシアW杯の4年後には代表メンバーの3分の2が入れ替わったが、カタールW杯で初めてメダルを手にした新世代がその後も実力と経験値を高めてきたからだ。同大会で「得点力不足」と批判されたFW陣も今季は絶好調。アンドレイ・クラマリッチ(17得点)、アンテ・ブディミル(18得点)、ブルーノ・ペトコビッチ(18得点)とタイプの異なる3人がそれぞれの所属クラブでゴールを叩き込んだ。昨年9月に膝十字靭帯を断裂したイバン・ペリシッチは、不屈の精神でしっかりと本番に間に合わせてきた。最後にチーム合流したのは、マドリーで6度目となるビッグイヤーを掲げたばかりのルカ・モドリッチ。偉大なキャプテンの花道を飾るべく、バトレニ全員で「金メダル」を持ち帰るつもりだった。

 大会直前のテストマッチでは、過去7戦で1分6敗とまったく勝てなかったポルトガルを敵地リスボンで倒したことも追い風に(◯2-1)。初めてCBのコンビを組んだヨシップ・シュタロとマリン・ポングラチッチがうまく補完し、マンチェスター・シティ同様に左SBで起用されたヨシュコ・クバルディオルは積極的に攻撃参加。モドリッチ、マルセロ・ブロゾビッチマテオ・コバチッチで形成される「黄金のトライアングル」も健在。ベンチには豊富なオプションを抱えており、ズラトコ・ダリッチ監督の交代策もずばりと当たった。先制のPKを決めたモドリッチは試合後に笑顔でこう語る。

 「僕たちは力強いプレーをし、ついにポルトガルを破ることができた。満足できる結果だよ。キックオフからタイムアップまで僕たちのプレーはずっと良かったし、試合前の取り決めはすべて実行した。この勝利はEUROに向けてさらなる自信になるだろう」

ペトコビッチのPK騒動もダリッチの自作自演だった?

 ところが、このポルトガル戦がフィジカル的にもメンタル的にもピークだった。ダリッチ監督はポルトガルをスペインの仮想国と捉えており、グループリーグ第1戦ではそっくりそのままのスタメンを送り込む。これが誤算だった。ポルトガルとスペインは非なるスタイルのチームだったことに加え、かつてのスペインと今のスペインも非なるスタイルのチームだったからだ。

 最初の15分はスペインに手も足も出なかったクロアチアは、ボールを保持して前がかりになった29分に一瞬の隙を突かれて失点。その後もラミン・ヤマルとニコ・ウィリアムズの両ウィングにかき回され、安易にゴールを割られ続けたことでスコアは0-3に開いてしまう。厳しい西日をもろに浴びた前半において「エネルギー不足の象徴」になったのがブロゾビッチだ。アル・ナスル移籍後は運動量そのものに変わりなくとも、プレーの一つひとつにパワーと精彩を欠いていた。ボール支配率やシュート数でスペインを上回ってもゴールを奪える気配はなく、ダリッチ監督はあっさりと白旗を挙げた。65分にはアルバニア戦に向けて体力温存すべく、モドリッチとコバチッチを同時に下げたことで敗北ムードを醸成。ところが、試合後の会見で指揮官は不可解な言動を起こした。

 「ペトコビッチはPKを蹴るべきではなかった。『PKのファウルをもらった選手はPKキッカーにならない』というのが(暗黙の)ルールだからだ。チームにはヒエラルキーが存在する。あそこはペリシッチか(ロブロ・)マイェルが蹴るべきだった。ペトコビッチに責任を取らせることはしないが、これは問題事項として私が解決する」

 ダリッチが槍玉に挙げたシーンは80分。ロドリに倒されて得たPKをペトコビッチ本人が蹴り、GKウナイ・シモンに止められたわけだが(その後の流れでペトコビッチはゴールを決めるも、ペリシッチのペナルティエリア侵入が早くて認められず)、実際はペトコビッチが蹴る前に『キッカーを務めてよいか?』とペリシッチに確認している。VARが発動しているうちにベンチから介入することも十分に可能だった。そもそも監督自身が捨てゲームと判断した後の一件で、ここまで目くじらを立てる必要はなかったのではないか。

……

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Profile

長束 恭行

1973年生まれ。1997年、現地観戦したディナモ・ザグレブの試合に感銘を受けて銀行を退職。2001年からは10年間のザグレブ生活を通して旧ユーゴ諸国のサッカーを追った。2011年から4年間はリトアニアを拠点に東欧諸国を取材。取材レポートを一冊にまとめた『東欧サッカークロニクル』(カンゼン)では2018年度ミズノスポーツライター優秀賞を受賞した。近著に『もえるバトレニ モドリッチと仲間たちの夢のカタール大冒険譚』(小社刊)。

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