ベガルタ仙台の心臓であり、頭脳。“ピッチの監督”長澤和輝は、今日も“統一感のタクト”を振る
ベガルタ・ピッチサイドリポート第15回
J1昇格争いを繰り広げるベガルタ仙台の中で、経験豊富なベテランが存在感を示し続けている。チーム在籍2年目の32歳。長澤和輝がその人だ。チームメイトやサポーターからは「先生」とも称されるように、人をポジティブに導くことのできるリーダーシップで、若い選手の揃うベガルタをしなやかにまとめる姿が実に頼もしい。今回もそんな“長澤先生”がいま感じている想いに、おなじみの村林いづみが切り込んだ。
走った稲妻。ふわっとした雰囲気を切り裂いた鋭い声
さかのぼること4か月前。3月、ある日の練習場で印象的なシーンがあった。ベガルタ仙台は第2節のV・ファーレン長崎戦でシーズン初勝利をあげた。チームは翌週の水曜日にルヴァンカップ・アスルクラロ沼津戦、日曜日にホーム開幕の第3節・水戸ホーリーホック戦と連戦を控えていた。その週の始まりの月曜日、ユアテックスタジアム仙台を使用した練習でのことだった。
リーグ戦に勝利し、リカバリーを行う選手、沼津戦のメンバーに入るべく練習に取り組む選手と状況はそれぞれだった。何となくふわっとした雰囲気。統一感のないピッチだった。そこで長崎戦で先発出場した長澤和輝が、鋭い声をあげた。ピッチに走った稲妻。選手たちの目の色が変わった。スイッチが切り替わった瞬間を見た気がした。
この一瞬を、森山佳郎監督も当然見逃さなかった。練習後の締めの挨拶で全員の前でこう伝えた。「やっぱり和輝はさすがだよね。こういうところで声をあげられる。ちょっと緩みそうだなというのをいち早く察知してピリッとさせてくれたよね」。コンディションや出場時間によって、その週における個人の目標があったとしても、チーム全体として目指す方向が変わってはいけない。緩む前に締め直す、長澤選手の危機管理能力はピッチの外でも示され続けている。
森山監督にそんな長澤選手のことを聞いてみると、とてつもなく高い信頼感が伝わってくる。
「和輝は僕よりも影響力があるんじゃないか?というくらい、試合前もハーフタイムも、試合後も、選手一人一人と『こういう時は、こうした方がいい』『チームとしてはこうやろう』ということを話してくれています。かなり助けられています。経験があるし、ピッチの中でも一番落ち着く場所。余裕を持って駆け引きしていますね。相手の狙いの矢印を折り、相手が嫌だなというところを突けるのは彼ならでは。松井(蓮之)と良いコンビを組んでくれています。
長澤はボランチの、というより『チームの心臓で頭脳』。開幕戦から止まることなくチームを動かし続けてくれています。ありがたい存在ですね。プレー自体もそうですが、彼にはプレーでは測れない、映像では伝えられないチームを引き締め、動かすものがあって、それはベガルタにとっては大きいものです。頼りにしています」
高いリーダーシップを発揮し、監督までもが頼りにする「ピッチ内の監督」。チームの要として走り続ける彼に話を聞いてみた。
勝負どころの夏。一番厳しい時間帯にインテンシティを落とさない
――J2のリーグ戦もシーズン前半戦を終えて、後半の戦いに入っています。ここまでの手応えはいかがですか?
「全員で練習から積み上げをしてこられていると思います。試合の後半で、インテンシティを落とさずに勝負できている試合も増えています。そういったフィジカル面の積み上げもできているので、リーグ後半はそれを結果につなげていけるようにしたいです」
――気温も湿度も高くなっている中で、ゲームの後半に相手を上回るパフォーマンスを出せているということは、「フィジカル面の積み上げ」が出てきているということなのでしょうか?
「そうですね。トレーニングの内容も関係あると思います。フィジカルコーチの村さん(村岡誠さん)の計画のもと、フィジカルトレーニングが行われています。試合に向けた4日間のトレーニングで2部練習を2度も行うチームはそうないと思いますが、その成果がゲームに現れていると思います」
――2部練習は結構きついですよね。
「きついです(笑)」
――長澤選手は、昨季途中に仙台に加入しました。今季はシーズンのスタートから仙台でプレーしていますが、ここまでの個人としての手応えはいかがですか?
「ポジションとして真ん中で試合に出ることが多いので、攻守において仕事は多いです。できること、できないことがありましたけれど、もっともっとチームの勝利に貢献したいと思っています」
――小出悠太選手は「和輝さんはピッチの真ん中で“統一感のタクト”を振ってくれる」と話してくれました。チームがバラバラになりそうな時、まとめてくれるのは長澤選手だと。チームの意志を統一するため、ご自身の役割についてはどう捉えていますか?……
Profile
村林 いづみ
フリーアナウンサー、ライター。2007年よりスカパー!やDAZNでベガルタ仙台を中心に試合中継のピッチリポーターを務める。ベガルタ仙台の節目にはだいたいピッチサイドで涙ぐみ、祝杯と勝利のヒーローインタビューを何よりも楽しみに生きる。かつてスカパー!で好評を博した「ベガッ太さんとの夫婦漫才」をどこかで復活させたいと画策している。