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優勝しない限りは褒められもしない現イングランド代表監督、サウスゲイトの手柄

2024.07.06

Good Times Bad Times 〜フットボール春秋〜 #6

プレミアリーグから下部の下部まで、老いも若きも、人間も犬もひっくるめて。フットボールが身近な「母国」イングランドらしい風景を、在住も25年を超えた西ロンドンから山中忍が綴る。

footballista誌から続くWEB月刊連載の第6回(通算240回)は、今晩ベスト4進出を懸けたスイス戦に臨むEURO2024で、初戦から酷評を浴び続けるスリー・ライオンズ指揮官の、忘れてはならない就任8年間の功績について。

“セーフゲイト”のチームはつまらない

 イングランドは、現地時間7月6日夕方のEURO2024準々決勝スイス戦を、負けても仕方のない「アンダードッグ」として迎えることになった。この見方は、英国人らしいシニカルなユーモアが背景にある。ただし、今大会でのチームパフォーマンスでは、MFグラニト・ジャカをキャプテン兼メトロノームとするスイスが優っているという事実もある。

 イングランドはというと、内容の乏しい計2勝2引き分けでの8強入り。ファンの間では、指揮官のガレス・サウスゲイトに不満と批判の声が向けられている。就任8年目の母国人監督は、2018年に28年ぶりとなるW杯準決勝進出を実現し、前回のEURO2020では1966年以来の国際大会決勝にチームを導いた実績を持つ。にもかかわらず、国民の間では「今大会限り」を妥当とする意見が過半数のように感じられる。

 不信任の声は、欧州選手権の舞台からはるか彼方のハワイでも耳にした。開幕直後の10日間ほど、筆者は親友の還暦を祝うべくワイキキに滞在していた。開催国ドイツとの時差は12時間。イングランドがグループ首位通過を決めたスロベニア戦(0-0)は、現地時間午前9時キックオフの試合が観られるスポーツバーも限られた。

 朝食メニューもあるバーを見つけて入ってみると、NFLグッズで飾られた複数のテレビ画面には、イングランド対スロベニアとデンマーク対セルビアの生中継映像が映されてはいた。しかし、音声はなし。店内にはレゲエの音楽が流れていた。

 15年以上前の話になるが、「テレビの音を消してチームのシェイプを漠然と眺めるのがいいんだ」と言っていたのは、スポンサーのイベントでロンドンを訪れた際に話を聞いたサミュエル・エトー。目の前の巨大なパンケーキ越しに眺めてみたイングランドの各ラインは、時に間延びし、多くの時間帯で低めだった。……

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Profile

山中 忍

1966年生まれ。青山学院大学卒。90年代からの西ロンドンが人生で最も長い定住の地。地元クラブのチェルシーをはじめ、イングランドのサッカー界を舞台に執筆・翻訳・通訳に勤しむ。著書に『勝ち続ける男 モウリーニョ』、訳書に『夢と失望のスリー・ライオンズ』『ペップ・シティ』『バルサ・コンプレックス』など。英国「スポーツ記者協会」及び「フットボールライター協会」会員。

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