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親会社撤退のリアルは事業規模半減の「身の丈に合った堅実路線」すら頓挫する泥沼。2009年、経営危機の東京Vに起きたこと

2024.06.30

泥まみれの栄光~東京ヴェルディ、絶望の淵からJ1に返り咲いた16年の軌跡~#3

2023年、東京ヴェルディが16年ぶりにJ1に返り咲いた。かつて栄華を誇った東京ヴェルディは、2000年代に入ると低迷。J2降格後の2009年に親会社の日本テレビが撤退すると経営危機に陥った。その後、クラブが右往左往する歴史は、地域密着を理念に掲げるJリーグの裏面史とも言える。東京ヴェルディはなぜこれほどまでに低迷したのか。そして、いかに復活を遂げたのか。その歴史を見つめてきたライター海江田哲朗が現場の内実を書き綴る。

第3回は、2009年に親会社である日本テレビが株式譲渡したことに端を発した経営危機について、当時のフロントの動きを振り返った。

苦境を物語る“胸スポンサーのないユニフォーム”

 二度目の降格となった2009シーズン、東京ヴェルディはJ2の中位を漂った。クラブ創立40周年の節目、ユニフォームの胸スポンサーはぽっかり空いている。東京Vの置かれている苦境を雄弁に物語っていた。予算は大幅に縮小され、前年までのコーチから監督に就いた高木琢也は難しい舵取りを余儀なくされた。

 私が2001年の東京移転を機に、ランド(東京Vの練習場)に足を踏み入れてから早8年の年月が流れていた。責任企業である日本テレビの場当たり的、かつプロフェッショナルとはかけ離れたクラブ運営にはすっかりうんざりしていた。

 転換点にあるのは明らかで、それ自体は必ずしも悲観的に捉えていなかった。組織が変わることは、前に進む力を取り戻すきっかけになり得る。困難を乗り越えた先に再生への希望もあった。

 日本指折りの育成組織をはじめ、ポテンシャルは間違いなくある。クラブチームの先駆けとして日本サッカーを長く牽引してきた歴史、都市圏の地の利もある。ただし、すべてがよりよいサッカーのために、クラブとともに歩む人たちのために物事が動き、選択されるわけではない。厳然たる企業論理の前に、それらがどれほどの力を持つのか。私は見込みの甘さを思い知らされることになる。

親会社の日本テレビの負担は一時30億円近くに

 2009年9月16日、東京都稲城市の東京Vクラブハウス――。午後6時半。運営法人である日本テレビフットボールクラブの株式譲渡についての記者会見が行われた。

 始めに、現経営トップの小湊義房社長が説明に立った。前日、Jリーグ理事会で、日本テレビ放送網の保有する98.8%の株式を東京ヴェルディホールディングス(以下、東京VHD)に譲渡することが承認され、この日の臨時株主総会で正式に決定したこと。譲渡は9月30日までに実行されること。昨秋から10社以上の企業と交渉し、最終的に東京VHDに決まったことを簡潔に語った。

 引き金は、2008年9月、日本テレビが中間連結決算で37年ぶりの赤字を計上したことだった。東京Vは収支のアンバランスを日本テレビからの業務委託費(事実上の損失補てん)で埋め合わせており、影響を受けるのが道理だ。01年の東京移転当初は許容範囲とされる10億円以下に抑えられていたが、前任の萩原敏雄社長(05年6月~09年4月)の頃から再び膨れ上がり、その額は30億円近くまで達していた。

 東京Vが親会社に依存しきった運営を続け、脆弱な経営基盤しか持てなかったことについて、小湊はこう答えている。

 「クラブによって内情は異なるでしょうが、企業に依存するところは景気の動向を強く受け、(今回のような出来事は)継続的に起こり得る。依存体質はなかなか変えようがなかった。反省点です」

 ここに至る道のりはまるで一本道のように聞こえるが、それは違う。筆頭株主の日本テレビと東京V経営陣には、常にいくつもの選択肢があった。その都度自らの手で選び取り、あるいは排除し、それなりの懸命さで歩んできた結果が目の前にある。要するに、それが責任企業である日本テレビの限界であり、同時に東京Vの器の大きさだった。

 かつて日本サッカー界のトップリーグが企業の福利厚生や宣伝を目的としたアマチュアスポーツの域を出ていなかった時代、読売グループは将来を見越し、他に先駆けて欧州型のクラブチームを立ち上げた。40年後、そこから撤退する理由が純然たる企業論理だったとは皮肉なものである。

 東京VHDの崔暢亮代表取締役会長は株式譲渡に至った経緯を次のように話した。……

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Profile

海江田 哲朗

1972年、福岡県生まれ。大学卒業後、フリーライターとして活動し、東京ヴェルディを中心に日本サッカーを追っている。著書に、東京Vの育成組織を描いたノンフィクション『異端者たちのセンターサークル』(白夜書房)。2016年初春、東京V周辺のウェブマガジン『スタンド・バイ・グリーン』を開設した。

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