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ジキル博士がハイド氏になったドイツ代表。「美」と「執念」は両立可能なのか?

2024.06.26

新・戦術リストランテ VOL.21

footballista創刊時から続く名物連載がWEBへ移籍。マエストロ・西部謙司が、国内外の注目チームの戦術的な隠し味、ビッグマッチの駆け引きを味わい尽くす試合解説をわかりやすくお届け!

第21回は、スコットランドとハンガリーに圧勝し、地元開催のEUROで一躍優勝候補の一角に浮上してきたドイツ代表。若き名将ナーゲルスマン率いるチームは華麗なパスワークで「新しいドイツ」をアピールしてきたが、スイス戦で見せたのは「別の顔」だった。

「4-0より1-1」は負け惜しみ?それとも…

 EURO2024は開催国ドイツが2勝1分でベスト16へ進んでいます。最初の2試合ではダントツの内容と思いましたが、3試合目のスイス戦は微妙でした。ただ、この試合ではそれまでとは違う顔を見せていたのが面白かった。

 先発メンバーは3試合とも同じでした。すでにグループ突破は決めていたので、スイス戦はメンバーを代えてくるものとばかり思っていただけに意外でしたね。

 「7人を入れ替えるようなことはしない。首位で勝ち上がりたい」(ナーゲルスマン監督)

 ということでしたが、正直入れ替えた方が良かったんじゃないかと思います。まあ結果論なんですが、前の2試合に比べると細かいミスが多くパフォーマンスが落ちていて、疲れていたのではないかと。

 スイスが上手く守っていたこともあります。

GKヤン・ゾマーを中心に堅守を披露するスイス代表守備陣

 [5-2-3]のブロックでドイツのリュディガー、ター、クロースの3枚回しに対して、スイスの前3人が早めに抑えに行く。これで全体をコンパクトにすることができた。アンカーポジションのアンドリッヒをボランチがつかみ、2列目と3列目の間に入って来るギュンドアン、ムシアラ、ビルツはDFが前へ出て迎撃。さらにコンパクトなので、アンカーや中間ポジションへのパスに対して前後で挟み込む守備ができていました。

 ただ、単純にドイツのミスも多かった。

 クロースが復帰したドイツは見違えるようなチームに変身していました。華麗なパスワークはドイツ代表史上でも屈指というか、歴代最高だと思います。1972年欧州選手権優勝の時と、2014年ブラジルW杯優勝時、この2つのドイツ(西ドイツ含む)が技術的に最高レベルですが、今回はそれを超えるものがありました。

 ナーゲルスマン監督も自信があったと思います。この勢いを止めたくなかったのでしょう。ところが、結果的に勢いを止めてしまったのではないかと。

 「今後のことを考えると、4-0で完勝するより、終盤に追いついた1-1の方が良かった」(ナーゲルスマン監督)

 これは負け惜しみ(負けていませんけど)が半分、本音が半分じゃないでしょうかね。だって、4-0で勝てると思っていたんでしょ(笑)。ただ、90分にフュルクルクのゴールで追いつく過程では、それまでとは全く別の顔を見せていた。そこは収穫と言えばそうかもしれません。

パスワークへの過信が招いた機能不全

……

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Profile

西部 謙司

1962年9月27日、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、会社員を経て、学研『ストライカー』の編集部勤務。95~98年にフランスのパリに住み、欧州サッカーを取材。02年にフリーランスとなる。『戦術リストランテV サッカーの解釈を変える最先端の戦術用語』(小社刊)が発売中。

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