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平日ナイターでJFL歴代最多の1万6480人動員。クリアソン国立開催の舞台裏

2024.06.26

“新興サッカークラブ”の競争戦略
J30年目に新しいクラブをつくるリアル
#5

徳島ヴォルティスでプレーした元Jリーガーで、サッカー選手のステレオタイプを疑うユニークな記事発信で話題になった井筒陸也は現在、本人が「ベンチャーサッカークラブ」と語るクリアソン新宿で広報とブランディングを担当している。『敗北のスポーツ学』でもテーマにした「勝つこと」以外にも価値を見出す異質なメガネを持つ彼の目から見た“新興サッカークラブ”のリアルな舞台裏、そこから見える新しい時代を生き抜く競争戦略とは?

第5回は、6月7日の金曜ナイターでJFL歴代最多の入場者数を記録した「国立開催」の舞台裏を当事者の視点でレポートしてもらおう。

 6月7日(金)JFL第11節 クリアソン新宿対FCティアモ枚方は国立競技場で開催された。入場者数1万6,480人を記録。これはJFLの歴代最多となった。

国立競技場に駆けつけたクリアソン新宿サポーター

 更新前の記録は1万6,218人で、同じように一昨年我々が国立競技場で成し遂げた記録だ。しかし、その時は対戦相手にはキングカズこと三浦和良が在籍していた。彼はただの有名人ではない。Jリーグ元年、国立でシャーレを掲げた男である。そんな彼が凱旋する、新国立の芝を踏むということで規格外のPRとなった。我々もしっかりと便乗した。もちろんマッチメイクの時点でその意図があったわけだが、相手がキングカズなら、“乗っかる”のに恥ずかしいもクソもない。

「年間3万人」に向けた戦略

 昨年は、都並監督が率いるブリオベッカ浦安との対戦だった。関東対決でアウェイサポーターの動員もあった組み合わせだったが、結果は1万1,150人。キングカズ効果を痛感した。そして3度目の国立開催。今年からJリーグに昇格する上で、年間3万人の動員がマストになった。正確には努力義務のような形で緩和されていたものが元に戻った。

 だから、この基準を達成しないと泣こうが喚こうが昇格ができないという点で、ピッチに立って得点と勝ち点の奪い合いをしている選手さながら、事業部サイドも強度を持ってこの数字を追いかけている。

 そうした中で集客戦略を策定するわけだが、クリアソン新宿の現状の実力として毎試合コンスタントに2,000人以上を集客するのはかなり厳しい。それは、特別な施策を打たなくても来てくれるコアファンが少ないということであり、だからと言って特別な施策を打ち続けるリソースもないということである。

 そこで「開幕」「夏休み」「(状況次第では昇格をかけた)シーズン終盤」そして「国立開催」というように年数回の山場をつくり、あくまで“年間3万人”を達成しようという算段である。

 特に国立は箱自体の魅力に加えて、新宿区にあるこのスタジアムは、我々が日常的に接している人たちにとって精神的にも物理的にも距離が近い。こうして、普段の試合が500〜1,000人前後であるのに対し、20倍近い動員になる。

 この乖離を揶揄されることもあるが、そういう戦略なのでしかたがないし、四の五の言わずに3万人集めるしかないのだ。美しいサッカーとは程遠くても、勝つためにはパワープレーでもなんでもやって、パスがズレても身体でゴールにねじ込むのだ。同じように、四の五の言わずに3万人集めるのだ。

JFL第11節FCティアモ枚方戦のスターティングイレブン(Photo: Criacao Shinjuku)

4月→6月開催のワケ

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Profile

井筒 陸也

1994年2月10日生まれ。大阪府出身。関西学院大学で主将として2度の日本一を経験。卒業後は J2徳島ヴォルティスに加入。2018シーズンは選手会長を務め、キャリアハイのリーグ戦33試合に出場するが、25歳でJリーグを去る。現在は、新宿から世界一を目指すクリアソン新宿でプレーしつつ、同クラブのブランド戦略に携わる。現役Jリーガーが領域を越えるためのコミュニティ『ZISO』の発起人。

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