サウダージの国からボア・ノイチ 〜芸術フットボールと現実の狭間で〜 #5
創造性豊かで美しいブラジルのフットボールに魅せられ、サンパウロへ渡って30年余り。多くの試合を観戦し、選手、監督にインタビューしてきた沢田啓明が、「王国」の今を伝える。
footballista誌から続くWEB月刊連載の第5回(通算183回)は、3年半前に帰還した母国で公式戦195試合104得点38アシスト(6月9日時点)と「第二の全盛期」を謳歌するストライカーの現在と、その激動の半生について。
2021年初め、34歳でブラジルの強豪アトレチコ・ミネイロへ入団した。
2005年、18歳で日本へ渡り、その後、ポルトガルで大ブレイクしてブラジル代表入り。巨額の移籍金でロシアのクラブへ移り、2014年のW杯に出場した後、2016年から中国リーグでプレーしていた。
母国でプレーするのは実に16年ぶり。国内メディアとファンの多くは「長年、外国を渡り歩き、すでに峠を越した選手」とみなしていた。
ところが、彼はこのような予想を完全に裏切った。往年と変わらぬパワー、スピード、決定力を発揮し、国内リーグで19ゴールを挙げて得点王。チームが50年ぶり3度目の優勝を達成する立役者となった。
翌2022年も好調で、コパ・リベルタドーレスでベスト8入りに貢献。昨年もリーグのアシスト王に輝く活躍で、チームを3位に押し上げた。
今年は、ミナスジェライス州選手権で得点王。6月初めの時点で、すべての大会を合わせて22試合に出場して9ゴール6アシストを記録している。
5月28日に行われたコパ・リベルタドーレスのグループステージ最終節カラカス(ベネズエラ)戦では、右サイドからドリブルで2人をかわして中へ切れ込むと、豪快なミドルシュートを叩き込んだ。この大会の通算16点目で、ペレ、ジーコの得点数と並んだ。
J2からワールドクラスへ、ピッチ内外で規格外だった
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Profile
沢田 啓明
1986年ワールドカップ・メキシコ大会を現地でフル観戦し、人生観が変わる。ブラジルのフットボールに魅せられて1986年末にサンパウロへ渡り、以来、ブラジルと南米のフットボールを見続けている。著書に『マラカナンの悲劇』(新潮社)、『情熱のブラジルサッカー』(平凡社新書)など。