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CL優勝レアル・マドリーが体現する、ポジショナルプレーの「先」で問われる質

2024.06.05

新・戦術リストランテ VOL.18

footballista創刊時から続く名物連載がWEBへ移籍。マエストロ・西部謙司が、国内外の注目チームの戦術的な隠し味、ビッグマッチの駆け引きを味わい尽くす試合解説をわかりやすくお届け!

第18回は23-24の欧州サッカー総決算、レアル・マドリー対ドルトムントのCL決勝を分析。ドルトムントのペースだった前半からのレアル・マドリーの修正策、そしてポジショナルプレーの「先」で問われる質について考えてみたい。

 終わってみればレアル・マドリーの15回目の優勝。前半に4つもあった決定機を決めていれば、ドルトムントにもチャンスがあったと思います。ただ、4つのうち1つでは、おそらく結果は変わらなかったのではないか。そう思わせる強さがマドリーにありました。

 劇的勝利が定番になっているレアル・マドリーとすれば、わりとすんなりした勝ち方だったかもしれません。

 そうは言っても前半はかなり危なかったのですが、後半にそこを修正していました。そしてお家芸のCKからのゴール。さらに相手のミスにつけこんでの2点目。あとは時間を使いながらの余裕あるプレーぶりでしたね。

 やはり準々決勝のマンチェスター・シティ戦が山場でした。あれを何とかPK戦で勝ち上がったことで一気に視界が開けた。準決勝のバイエルン戦も苦戦したとはいえ、恒例の劇的勝利で決勝へ。ここまで来ればまず負けません。レアル・マドリーの決勝戦の勝率は異常です。

 では、この試合のポイントになった守備の修正と、もう「またか」という感じではありますが、レアル・マドリーの勝負強さについて考えてみたいと思います。

ライン裏を突かれるなら引けばいい

 前半、ボールを支配して攻め込んでいたレアル・マドリーでしたが、4回の決定機を作られています。いずれもフラットなラインの裏を取られていました。

 13分、ライン裏へ落したパスにフュルクルクが追いつき、短く戻したところをブラントが拾ってシュート。ファーポストの外へ逸れましたが1点ものでした。

 21分、フンメルスがするするっと持ち上がり、右CBリュディガーの内側を抜くスルーパス。左端にいたアデイェミがカルバハルとリュディガーの間を通って抜け出し、GKクルトワもかわしますが、シュートは懸命に戻ってきたカルバハルがブロックしました。

自慢の快速を飛ばしてクルトワとの1対1を迎えたアデイェミ。今大会で叩き出した時速37.6kmは全出場選手の中で堂々のトップだ

 23分、マートセンがカマビンガのドリブルをスチール。そのまま前進してスルーパス。フュルクルクが抜け出しますがシュートはポストに当たります。

 28分、ブラントのスルーパスでアデイェミが抜け出してシュート。GKクルトワが防ぎました。

 まあ、よくもこれほどライン裏を攻略されて無事にすんだものです。しかし、後半に入るとそうしたピンチはなくなりました。

 修正点は2つ。まず、ドルトムントにボールを持たせました。少し後退して裏のスペースを消しています。持たせてしまった方が恐くないという判断でしょう。ダイレクトにゴールへ向かう攻め込みに優れたドルトムントですが、時間をかけた攻撃はそこまで脅威ではありませんでした。

タッチラインを挟んでベリンガムに指示を出すレアル・マドリー監督のカルロ・アンチェロッティ

前4人は自由。ゆえに「戻る場所」が大事

 もう1つは、戻る場所をはっきりさせました。レアル・マドリーのフォーメーションはいちおう[4-4-2]ですが、運用的には[4-2-4]と考えた方がわかりやすいと思います。……

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Profile

西部 謙司

1962年9月27日、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、会社員を経て、学研『ストライカー』の編集部勤務。95~98年にフランスのパリに住み、欧州サッカーを取材。02年にフリーランスとなる。『戦術リストランテV サッカーの解釈を変える最先端の戦術用語』(小社刊)が発売中。

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