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セリエA昇格のセスク率いるコモが秘める巨大な可能性「4、5年でセリエAトップと肩を並べたい」

2024.05.31

CALCIOおもてうら#18

イタリア在住30年、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えるジャーナリスト・片野道郎が、ホットなニュースを題材に複雑怪奇なカルチョの背景を読み解く。

今回は、ライセンスがないため立場はアシスタントコーチだが実質的には監督として、コモを21年ぶりのセリエA昇格に導いた37歳のセスク・ファブレガスが率いるコモの可能性について考察してみたい。

 突然だが、読者のみなさんはセスク・ファブレガスが今どこで何をしているかご存知だろうか。

 アーセナル、バルセロナ、チェルシーとトップクラブを渡り歩いてその中盤を支え、スペイン代表でもW杯1回、EURO2回の優勝に貢献する華やかなキャリアを送った後、2019年1月に31歳でモナコに移籍してキャリアの黄昏期を過ごしたところまでは知られているかもしれない。

スペイン代表の一員としてEURO2012の優勝トロフィーを掲げるセスク。両隣のシャビ・アロンソとフェルナンド・トーレスも現役引退後に指導者の道へと進んでいる

 そのモナコでも出番がなくなった2022年夏、キャリア最後の舞台に選んだのがイタリア・セリエBのコモだった。そのコモでは1シーズン限りで引退を決め、今シーズンはプリマベーラ(U-19)を率いて監督として第2のキャリアをスタート、したかと思ったら、11月半ばには早くもトップチームの監督に昇格する。

 引退直後でUEFAプロライセンスは未取得のため、名目上の監督(58歳のウェールズ人オシアン・ロバーツ)を立てた上でそのアシスタントコーチを務めるという体を取りながら、実質的な監督としてチームを指揮、就任時点で6位だったコモを優勝したパルマに次ぐ2位にまで引き上げ、何と21年ぶりのセリエA昇格をもたらした。来シーズンはイタリアのトップリーグに監督デビューするセスクの姿が見られるというわけだ。まだ37歳。間違いなくセリエA最年少監督である(肩書き上はアシスタントコーチだが)。

セスク招聘の鍵は、外国資本とデニス・ワイズの人脈?

 北イタリアはスイスとの国境地帯に位置し、風光明媚な観光地として知られる人口8万5000人の小都市に本拠を置くそのコモは、その長い歴史の大半をセリエB、Cの下部リーグで過ごし、最後にセリエAで戦ったのが今から21年前の02-03シーズンという、イタリアのどこにでもあるプロビンチャーレ(地方都市の中小クラブ)の1つ。

 2003年に1シーズンだけでセリエBに降格した後は、2005年、2016年、2017年と3度もの破産を経験し、17-18に新たに設立された運営会社の下でアマチュアのセリエD(4部リーグ)から再スタートする。その2年後にはセリエCに昇格してプロリーグに復帰すると、20-21にはセリエBにステップアップ。そして3年目の今シーズン、セスクの指揮によってついにセリエAにまで上り詰めた。

本拠スタディオ・ジュゼッペ・シニガーリャのベンチに腰かけるセスク

 イタリアの多くの中小クラブがコロナウイルス禍がもたらした財政的困難を引きずり、チーム強化どころか存続するだけでやっとという困難な状況に陥っている近年、躍進を遂げたクラブはほとんど例外なく、外国資本をオーナーに迎えたところ。アメリカ資本のパルマ、ベネツィアと並んでセリエBのトップ3を構成したコモも例外ではない。

 コモがセリエCに昇格した2019年にクラブを買収した「セント・エンターテインメント」は、ロンドンに本社を置き、映像や音楽の制作、配信を行うメディアカンパニーだが、コモにとってはスポンサー兼持株会社という機能を担っているに過ぎない。そのセント・エンターテインメントの親会社であるインドネシアの巨大コングロマリット「ジャルム」グループを保有するハルトノ家が、実質的なオーナーだ。……

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Profile

片野 道郎

1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。

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